服務規律・懲戒のポイント | 名古屋の花井綜合法律事務所公式ブログ(企業法務・労働・会社法・相続など)
服務規律・懲戒制度のポイントをご紹介します。

~服務規律~

【服務規律の新設と労働条件の不利益変更】
使用者は企業秩序定立・維持権限を有しており、労働者は労働契約の付随義務として企業秩序遵守義務を負っています(富士重工業事件 最判昭52.12.13)
企業を取り巻く環境は常に変化しており、企業秩序を維持するために労働者が遵守すべき事項を定める服務規律も、企業環境の変化に応じて見直すことは必然であるといえます。
したがって、企業秩序維持を円滑に行うことを目的として服務規律を新設することは労働条件の不利益変更にはあたらず、労働契約法10条の議論は生じないと考えます。


【兼業の事前許可制】
兼業により経営秩序を乱す事態が生じ得るかについて合理的判断を行うために、労働者に事前に兼業の許可を申請させ、その内容を具体的に検討して使用者がその許否を判断することも許されるとされています(マンナ運輸事件 京都地判平24.7.13)
ただし、兼業をしても、本来の業務に全く影響が生じない場合や、兼業先が競合他社でもない場合は、許可を得ずに兼業を行ったことを事由とする懲戒処分が無効とされる可能性もありますので、運用の際に注意が必要です。


【通勤手段の規制】
通勤は業務ではないので、通勤方法を就業規則等で規制(車通勤禁止・バイク通勤禁止)して良いかという疑義が生じます。
この点について、以前、労基署に問い合わせたことがあります。
その時の回答は「民事上、最終的に有効となるかは無効となるかは、個別の事案ごとに裁判所が判断することだが、就業規則等で規制すること自体は労基法等の法令に違反するものではない。」というものでした。
紛争防止、また、有効性をより高めるため、就業規則で定める場合、労使協定を締結しておくのも有意義ではないかと思います。


【秘密保持義務】
在職中の労働者は、労働契約の付随義務として、秘密保持義務を負っています。
退職後については、労働契約の付随義務としての秘密保持義務も終了するという見解と、信義則上の義務として存続するという見解が対立していますので、義務の存在を明確にするためにも、就業規則に退職後の秘密保持義務を定めておくべきです。

具体的に何が秘密の対象になるのかを例示列挙すべきです。
労働契約上の秘密保持義務の対象となる秘密情報について、定義・例示が一切記載されておらず、予測可能性を害するとして、当該事案で問題となった情報につき、秘密保持義務の対象とはならないと判断した裁判例があります(東京地判平20.11.26)


【所持品検査】
所持品検査は、プライバシーや人格権等の関係から、当然に認められるものではありません。
判例では、下記要件を満たしている必要があるとしています(西日本鉄道事件 最判昭43.8.2)
(1)検査を行う合理性があること
(2)検査方法が一般的に妥当な方法と程度で実施されること
(3)制度として画一的に実施されるものであること
(4)明示の根拠に基づくものであること


【会社パソコンの私用禁止・モニタリング】
就業規則等に規定がない場合であっても、「監視の目的、手段及びその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益と比較衡量の上、社会通念上相当な範囲」のモニタリングは許されると解されています(F社Z事業部事件 東京地判平13.12.3)
しかし、会社パソコンの適切な使用を労働者に意識付けする観点・余計な紛争を防止する観点から、モニタリングの規定は必要であると考えます。


【私傷病による医師の診断書提出】
診断書の提出に関して「●日以上欠勤するとき」というように、日数要件を定めている例が散見されます。
日数要件を定めると、労働者に診断書の提出を求めやすいという利点もありますが、仮病が疑われる場合には、欠勤日数にかかわらず調査が必要であることから、敢えて日数要件を設けないことも考えられます。


~懲戒~

【懲戒事由作成のスタンス】
使用者が懲戒権を行使して労働者に懲戒処分を課すには、あらかじめ就業規則に懲戒の事由および種類を定めておかなければならないとされています(フジ興産事件 最判平15.10.10)
また、こうした規定は限定列挙であり、就業規則に定めのない事由に基づく懲戒処分、定めのない種類の懲戒処分はできないとされています。
こうしたことから、書籍などでは、隙のない懲戒規定を定めることが勧められており、各種規定例を見ても懲戒事由の項目がかなりの数になっている例が散見されます。
ただし、こうしたタイプの就業規則が労働者の目にどのように映っているかも考える必要があるように思います。
大切なことにポイントを絞り、最後に「前各号に準ずる行為があったとき」といった包括条項を置く規定の仕方にも意義があると考えます。


【懲戒事由と懲戒処分の関係】
「懲戒事由ごとに懲戒処分の種類を定める方法」と「懲戒事由を包括的に定め、懲戒処分の種類とは対応させない方法」がありますが、後者の方が運用しやすく、適切であると考えます。
外形的行為が同一であっても、実態や背景にある事情は個々の事案ごとに異なります。
「懲戒事由ごとに懲戒処分の種類を定める方法」だと、個々の案件に即した適切な処分量定ができないおそれがあります。


【形容詞・副詞】
安易に「著しく」「しばしば」といった表現を使うことは避けるべきだと思います。
例えば「しばしば無断欠勤をしたとき」という規定の仕方だと、1~2回の無断欠勤では懲戒処分を課すことができなくなります。


【包括条項】
前述したとおり、懲戒事由は限定列挙と解されていますので、懲戒事由の最後に必ず「前各号に準ずる行為があったとき」といった包括条項を設けるべきです。


【調査期間中の自宅待機】
労働者の行為が懲戒事由に該当するか疑わしい場合、事実関係を調査する期間、自宅待機を命ずることも考えられます。
自宅待機命令は、業務命令の一環として(労務指揮権を行使して)、就業規則の根拠を要することなく命ずることができます(ネッスル事件 静岡地判平2.3.23)
こうした場合、自宅に待機することが会社に提供すべき労務であるので、自宅待機期命令中は、原則として通常の賃金の支払い義務があります(三葉興業事件 東京高判平元.5.30)
ただし、不正行為の再発、証拠隠滅の恐れなどの緊急かつ合理的な理由がある場合等は、無給とすることも可能であると解されます(日通名古屋製鉄作業事件 名古屋地判平3.7.22)

以上

次回記事「服務規律・懲戒の規定例」に続きます。

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