採用・試用期間のポイント | 名古屋の花井綜合法律事務所公式ブログ(企業法務・労働・会社法・相続など)
採用・試用期間のポイントをご紹介します。


~選考方法・採用基準~

本来、採用に関する事項は、絶対的必要記載事項でも相対的必要記載事項でもないので、必ずしも就業規則において定める必要はありませんが、多くの就業規則では採用に関する定めを置いており、いわば就業規則を作成するうえでの型のようになっています。

選考方法や採用基準を就業規則に定めるか否かという問題があります。
厳格に定めてしまうと、会社の選択肢をせばめ、柔軟な採用活動に悪影響を及ぼすおそれがあるうえ、不採用者との紛争を誘発する危険があるので、基本的には控えるべきだと考えます。
ちなみに、会社は、不採用者に対して、不採用となった理由を開示する義務はありません(慶応義塾大学付属病院事件 東京高判昭50.12.22)

昨今、正規雇用者と非正規雇用者の均衡待遇が、重要な労働テーマの1つとなっています。
雇用契約の出発点である「採用」について、両者の違いを明確にしておく観点から、選考方法については「規定例2」のように、一定程度の規定を置くことは意義のあることかもしれません。
この場合であっても、採用基準については、厳格に定めることは控えるべきだと考えます。


~提出書類~

【競業避止誓約書】
在職中の競業避止義務は、信義則上の誠実義務として当然に発生しますが、退職後の競業避止義務の有効性は、職業選択の自由(憲法22条1項)との関係で、厳格に判断されます。

具体的には次の事項を総合的に勘案して、有効性の判断がなされます。
(1)労働者の地位が義務を課すのにふさわしいこと
(2)前使用者の正当な秘密の保護を目的とすること
(3)対象職種・期間・地域から見て職業活動を不当に制約しないこと
(4)適切な代償が存在すること

また、上記の事項に加え、手続き要件として「競業避止特約の締結に際して、労働者に必要な応報を提供すること」が求められます。

【身元保証書】
損害補填の意味に加え、従業員による不正に対する抑止力の意味合いが強いと思います。
身元保証期間は最長5年です(期間を定めなければ3年)
なお、自動更新特約を定めた事例について、当該特約が身元保証人にとって甚だ不利なものであることを理由に無効とした裁判例があります(札幌高判昭52.8.24)

【住民票記載事項証明書】
年齢、現住所を確認するために提出を求めます。

行政通達では、戸籍謄本・住民票の写しを一般的かつ画一的に提出させる必要は認めがたいとし、就業規則において提出を求める場合は、可能な限り住民票記載事項証明書によることとされています。
(昭50.2.17基発83号、昭63.3.14基発150号、平11.3.31基発168号)

「本籍地は就職に必要ないものであり、差別につながるので求めるべきではない」という趣旨に立脚しているようです。

【個人番号関係】
労働者から個人番号を取得する際には、本人確認を行う必要があります。
本人確認は、番号確認(正しい番号であることの確認)と身元確認(番号の正しい持ち主であることの確認)により行います。

具体的には、労働者に下記のような書類の提出を求めることが考えられます。

パターン①
●個人番号カード

パターン②
●「通知カード」又は「住民票の写し(個人番号が記載されているもの)」
●次の書類のいずれか
・免許証、パスポート、住民基本台帳カードなどの写真付き身分証明書を1点
・写真付き身分証明書がない場合、身分証明書の写しを2点
具体例:「健康保険被保険者証の写し」、「年金手帳の写し」


~試用期間~

【法的性質】
試用期間は解約権留保付労働契約であるとするのが、最高裁の見解です(三菱樹脂事件 最大判昭48.12.12)
上記判例では、留保解約権の行使(試用期間中・満了時の解雇・本採用拒否)について、「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される」と判示したうえ、留保解約権に基づく解雇は通常の解雇よりも広い範囲において解雇の自由が認められてしかるべきであると判示しています。

【試用期間の長さ】
試用期間として合理的必要性が認められる期間は、職種・職務内容によっても異なりますが、3箇月から6箇月としている例が多いように感じます。
労働者のモチベーション等を考慮すると3箇月程度が望ましいように思います。
「見習い期間2箇月、試用期間1年」という規定について、期間が長すぎるとして無効とした裁判例があります(ブラザー工業事件 名古屋地判昭59.3.23)

【試用期間の短縮・免除】
試用期間の短縮・免除は、労働者に有利な措置であるため、必ずしも就業規則に定める必要はありません。
就業規則をシンプルなものにするという観点から、敢えて定めを置かないことも考えられます。
逆に、短縮・免除を行った場合に、他の労働者から「差別的運用ではなくルールに則った措置であること」の理解を得るという観点からは、定めを置くことにも意義があるものと思われます。

【試用期間中の解雇・本採用拒否】
本採用の有無の判断時期について、就業規則で「満了日に行う」と定めた場合、試用期間中の解雇は認められないと解釈する余地を残してしまいます。
疑義の生じないように「試用期間中または試用期間満了時」と定めるべきだと考えます。

ただし、このように定めたとしても、試用期間の満了を待たずに解雇するには、より一層高度の合理性と相当性がもとめられるとした判例があります(ニュース証券事件 東京高判平21.9.15)
試用期間満了を待たずして解雇すべき特段の事情が必要といえるでしょう。

【試用期間の延長】
試用期間の延長は、就業規則に定めがなくてもできるとする判例(中田建材事件 東京地判平12.3.22)もありますが、延長があり得るのであれば、紛争予防の観点(労働者に納得して頂くため)から、その旨の規定は置いた方が良いと思います。

ただし、ルールの上で可能であっても、実際に延長した場合には労働者のモチベーションの低下などに繋がるため、試用期間満了時には適切に判断ができるようにすべきです。
また、やむを得ず延長する場合であっても、本来の期間と延長期間をあわせて1年までが限界であると考えます。

※採用内定について

判例は、採用内定によって労働契約の成立を認める解約権留保付労働契約成立説を支持しています(大日本印刷事件 最判昭54.7.20)
上記判例は、企業の求人(契約申込みの誘因)に対する応募は労働契約の申込みであり、内定通知は申込みに対する承諾であって、内定通知と誓約書提出によって解約権を留保した労働契約が成立するとしています。

留保解約権の行使である内定取消が認められるのは、「内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実」があり、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できる場合に限られるとされています。

以上

次回記事「採用・試用期間の規定例」に続きます。

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