年次有給休暇のポイント | 名古屋の花井綜合法律事務所公式ブログ(企業法務・労働・会社法・相続など)
年次有給休暇のポイントをご紹介します。

~労基法上の付与要件~

(1)6箇月継続勤務した労働者
全労働日の8割以上出勤したこと
(2)1年6箇月以上継続勤務した労働者
6箇月経過日から1年継続勤務するごとに全労働日の8割以上出勤したこと

【継続勤務】
労働契約の存続期間すなわち、在籍期間を意味します。実態に即して判断されます。

例えば、定年退職者を嘱託職員として再雇用している場合なども、勤務年数を通算することとされています(退職金が支払われている場合も同じです)。
ただし、退職と再採用の間に相当期間があり、客観的に労働関係が断続していると認められる場合は、この限りではありません。

【全労働日】
総歴日数から所定休日を除いた日をいいます。

全労働日に含めないもの
(1)休日労働日
(2)使用者の責に帰すべき事由による休業日
(3)正当な同盟罷業(ストライキ)その他正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日
(4)1箇月60時間超えの時間外労働に係る割増賃金の代替休暇を取得して終日出勤しなかった日

出勤したとみなされる日
(1)業務上の傷病により療養のために休業した期間
(2)育児・介護休業法の規定による育児休業または介護休業をした期間
(3)労基法の規定による産前産後の休業期間
(4)年次有給休暇を取得した日

労基法の「生理休暇」や育児介護休業法の「子の看護休暇」などを取得した日は、出勤したものとみなす必要はありません。
裁判所の判決により解雇の無効が確定した場合の、解雇日から復職日までの不就労日は、出勤日数に算入すべきものとされています(昭33.2.13基発90号)

【事前申請手続き】
時季変更権行使の判断や、人員配置などの業務支障への対応が必要ですので、事前申請を求める規定を置くことは必須であると考えます。
この点、判例も、就業規則で時期指定を事前にさせることは、その定めが合理的なものである限り有効であるとしています(此花電報電話局事件 大阪高判昭53.1.31 最1小判昭57.3.18)
どのくらいの期間であれば合理的なものであるかは、業態や企業規模など、個別に判断されるものだと思います。
上記判例では「前々日の勤務終了時まで」とすることを適法としていることから、書籍の規定例では2日前までと定める例が多いように感じます。

なお、労働者の指定した時季に年休を与えないことができるのは、あくまで「事業の正常な運営を妨げる場合」のみである筈です。
したがって、期限を渡過した申請であっても、そのことのみをもって年休を認めずに欠勤扱いとすることはできないと思われます。


~年休の買上げ~

法定の年次有給休暇の買上げの予約をして労働者が請求することができる年次有給休暇の日数を減じ、または日数を与えないことは、労基法39条に反するとされています。
ただし、時効消滅した年次有給休暇や、法定日数を超える日数を労使間で協約しているときの超過日数分については、買上げをしても差し支えないとされています(昭23.3.31基発513号)


~半日年休~

年次有給休暇は日単位で取得することが原則ですが、労働者が希望し、使用者が同意すれば、労使協定が締結されていない場合でも、日単位取得の阻害とならない範囲で、半日単位で付与できます。
会社が制度として半日年休を認めるのであれば、就業規則で、その旨および「半日」の定義を定めておくことが必要です。
この点、半日年休は始業時間か終業時間に接着していることが必要です。
例えば、所定労働時間が午前9時から午後6時までの会社において、午前11時から午後3時までを半日年休とすることは、後述の「時間単位年休」であり、半日年休としては認められないと解されます。

法令上、半日単位年休を与えることができる日数に上限はありませんが、「半日年休は日単位年休の阻害とならない範囲で認められていること」「時間単位年休では、上限が5日となっていること」からすれば、就業規則において上限を定めることを検討しても良いかもしれません。


~時間単位年休~

時間単位年休を導入するには、次の事項を労使協定で定める必要があります。
(1)時間単位年休の対象労働者の範囲
(2)時間単位年休の日数(5日以内)
(3)年休1日分に相当する時間単位年休の時間数
(4)1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数

※上記(1)について
対象労働者の範囲は、事業の正常な運営との調整を図る観点から、労使協定で定めることができるとされています。
例えば、一斉に作業を行う必要がある業務に従事する労働者は時間単位年休にはなじまないものと思われます。
年休の利用目的によって、対象者を定めることは許されません(「育休を行う者に限る」など)

※上記(3)について
1日の所定労働時間を基に定めることになりますが、1日の所定労働時間に1時間に満たない端数がある場合は、労働者に不利にならないよう、時間単位に切り上げなければなりません。
また、日によって所定労働時間が異なる場合は、1年間における1日平均所定労働時間数を基に定めます。

時間単位年休も時季変更権の対象となりますが、労働者が時間単位による取得を請求した場合に日単位に変更することや、日単位による取得を請求した場合に時間単位に変更することは認められないとされています(平21.5.29基発0529001号)


~年休の計画的付与~

労使協定(届出不要)により、年次有給休暇を与える時季(計画的付与)に関する定めをしたときは、年次有給休暇のうち5日を超える部分(前年からの繰越分を含む)については、その協定で定めるところにより付与することができます。

計画的付与の場合には、労働者の時季指定権および使用者の時季変更権はともに行使できないとされています(昭63.3.14基発150号)

【年休の日数が不足する労働者の場合】
会社をいっせいに休日とする場合等、年次有給休暇の5日を超える部分の日数が、計画年休の日数に満たない労働者についても休ませる必要がある場合、年次有給休暇の日数を増やすか、少なくとも休業手当(平均賃金の6割)の支払いが必要です。

【計画年休適用期間中に退職する労働者の場合】
計画年休の時季に退職予定の労働者については、計画年休ではなく、原則の個人年休として与えるほかはないと思われます。
したがって、予定された計画年休分を別の時季に指定してきた場合は、使用者はこれを拒めないと解されます。


~年休の比例付与~

労基法39条3項は、所定労働日数や所定労働時間数が正規雇用者に比べて少ないパートタイマー等について、正規雇用者との均衡を図るため、所定労働日数に応じて、年次有給休暇の比例付与を行うこととしています。

具体的には次のとおりです。

【対象労働者】
週所定労働時間が30時間未満であり、かつ、次の各号のいずれかに該当する者
(1)週の所定労働日数が4日以下の者
(2)週以外の期間によって所定労働日数が定められている場合には、年間所定労働日数が216日以下である者
※非正規雇用者でも、比例付与の要件に該当しない場合には、正規雇用者と同じ日数の年休が付与されます。

【付与要件】
通常の労働者と同じ

【付与日数】

※1日未満の端数は切り捨てます。
※付与日数に所定労働時間の長短は関係ありません。

以上

次回記事「年次有給休暇の規定例」に続きます。


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