僕はただ青空の下で人生の話をしたいだけ

辻内智貴 祥伝社 2012年10月


僕はただ青空の下で人生の話をしたいだけ/辻内智貴
¥1,575
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三年前に生まれ育った地方都市に戻って来た、作家でシンガーでもある竜二。猫のミーちゃんとふたり(?)暮らし、徒然に日々を送りながら生について、死について、思索をめぐらせる。社会の周縁から垣間見える、数々の人間ドラマ―。ベストセラー『セイジ』から10年―。しみじみとした風景の中に、胸を打つ言葉と物語が。珠玉の最新作品集。


「A DAY」では、作家でシンガーでもある竜二というのは、作者自身のことをいっているのか?竜二の日常のなかでふと人生について思うことが、あちらこちらにちりばめられている。この言葉が、心にじわ~と沁み込んでくる感じだ。


「阿佐ヶ谷」数年ぶりに訪れた地で、かつて暮らしたアパートの前で感じたことを綴る。


「記憶」は、ホラーのような、SFのような・・・・・・・・・。政府により脳に手術をされた男の話。

悪い記憶はない方が幸せなのか?ずっと昔のいい時をすごした時代にとどまっていたいという気持ちを尊重してやってもいいものなのか。そこには、ある落とし穴が・・・・・

記憶を操作すること自体こわいと思うが、記憶を守るために行おうとしている主人公の行為がおそろしい。



「君の幸福は僕の幸福」

幸福な暮らしをすることは、たいへんなこと。だから、街で、見るからに幸福そうなヤツを見つけ、その幸福を共有させて貰おうとする。おもしろい発想だ。そして、幸福とはいったい何なのかを考えていく。



お気に入り度★★★★

「僕はただ青空の下で人生の話をしたいだけ」は作者デビューして11年。9冊目の本だそうだ。
このブログを始める前に読んだ作者の作品の感想(以前書いたもの)を書いておく。




青空のルーレット

青空のルーレット (光文社文庫)/辻内 智貴
¥500
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窓拭きの仕事をする俺達は、芝居、マンガ、音楽などの夢を持っている。俺はバンドをやっている。だからといって、中途半端な気持ちで、仕事をしているわけではない。唯一中年清掃員の萩原さんは、社長の弟から苛められていた・・・

メシを喰うためだけでない、夢を見つづけるために窓拭きする若者たちが好印象だった。友情と思いやりが、さわやかな感動を与えてくれた。

「多輝子ちゃん」多輝子の16歳の恋は、まわりからは不良と思われていたが、本人は真剣だったのだ。こういう時期を経験しているからこそ、人はずっと生きていけるのだと思う。そして、多輝子と一つの曲との出会い―――それは人は誰でも何かの役に立っているのだと思わせる出来事だ。




セイジ  


セイジ (光文社文庫)/辻内 智貴
¥520
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今はもう寂れてしまった475号線沿いにある一軒のドライブイン「HOUSE475」で、10年前、一夏を過ごした田舎町の片隅で僕が偶然遭遇した軌跡の物語。

このドライブインのマスターセイジは、浮世離れしている。人間の本質はなにかを考えているような人だ。そういうセイジに好感が持てた。後半部分の事件は、前半部分が、和やかな感じだったので、ちょっと、とまどった。セイジのとった行動には驚いた。

もう一つ収録の「竜二」は、二十数年後、幼なじみの竜二と会ったこと、竜司の母親の死を通して生の意味を考えるといったお話。世間からはみ出しているような人生でも、何か一つはいい所がある。竜二の場合、それは、一冊の本なのだ。



いつでも夢を TOKYOオトギバナシ 


いつでも夢を (光文社文庫)/辻内 智貴
¥500
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ぬれるがままにぼんやりと雨に打たれつづけている一人の女(洋子)をジローは、雨宿りに自分のアパートに連れて行く。アパートの1階に住む親父、玉代も心配してお風呂を使わせてくれる。洋子はそのアパートで久しぶりにぐっすり眠る。

人情のある話いい。ジローはもちろん、親父、玉代、ヤクザの龍治に、人の暖かさを感じる。心を病む人は多いが、こういう人とのふれあいが、心の傷を癒してくれるのではないだろうか。ユーモアを交えた文章の中に、時々はっとする言葉が含まれていた。
”人生は虹”だというジロー。<虹そのものはないが、水蒸気や陽の光や気温や、そういう色んな他のもののそのときの状態が空に映し出してみせている。僕たちが生きているというのも、何かそんなふうなもの>この言葉が、心に残った。




信さん  


信さん (小学館文庫)/辻内 智貴
¥420
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私は故郷に帰り、昔の友達だった信さんの生きた日々というものを想い出す。フダツキの悪だった信さんと私が、初めて関わりを持ったのは、私が小学校3年生のある夏の出来事だった。

私の母はとてもステキな人。あの状況ですべてを理解してしまうとは。信さんでなくとも尊敬し慕ってしまう。信さんはこんな愛情に飢えていたのだろう。それ から変わっていく信さん。私の母を尊敬し、自分の家族のために頑張ってきた信さんの母への想いが感じられた作品。愛情ってこんなに大切なものなのです。

もう1編「遥い町(とおいまち)」これも昔を思い出しての物語。朝鮮人の子ヨン君。ずっと苛められて泣いていたヨン君の本当の強さを描いている。



ラストシネマ  


ラスト シネマ (光文社文庫)/辻内 智貴
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9歳の哲太は、県立病院に入院している雄さんのお見舞いに行き、東京の話や映画の話を聞くのが楽しみだった。雄さんは、昔、映画に出演したことがあった。ガンに冒されている雄さんにその映画を見せてやりたいと思い・・・・・

<「悪人が書けない」「何かしら心の匂いのするようなそんな物語を書きたい」>脚本家になった哲太の言葉だが、これは、作者自身の言葉に思える。今 の世の中、俗悪なことはいっぱいあるけど、小説にまでそんなことを書かなくても・・・・・・気持ちがあたたかくなるそんな小説、それが作者の小説だと思 う。田舎町で、雄さんに映画を見せてやるために心を合わせる哲太たちがいい。