雪と珊瑚と

梨木香歩 角川書店 2012年4月


雪と珊瑚と/梨木 香歩
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珊瑚、21歳。生まれたばかりの子ども。明日生きていくのに必要なお金。追い詰められた状況で、一人の女性と出逢い、滋味ある言葉、温かいスープに、生きる力が息を吹きかえしてゆく―。シングルマザー、背水の陣のビルドゥング・ストーリー。

ひとことでいうとシングルマザーの奮闘記なのだが、ひとことではとうてい言い表せないいろんな思いが詰まっていた。

手持ち資金も経験もない若い珊瑚が、店を開くに至るまで、助けてくれる人が周りにたくさんいて、スムーズにことが運ぶので、こんなことは実際にはあり得ないだろうと感じる部分はあった。


しかし、まじめに生きようとする珊瑚に好感が持てた。

珊瑚は珊瑚に対する好意を同情されているのではないかと悩む。クララさんに好意を利用すればいいと言われても、どこかでプライドが邪魔をする。それは、屈託なく育った家庭に対する嫉妬なのだろうか。そんなふうに思うのは、珊瑚の育った環境のせいだろう。

雪を育てるために、なりふりかまっている場合ではないと思いながらも、珊瑚を思ってのまわりのあたたかな思いを、素直に受け取れないのだ。

施す側を施しを受ける側の話があったが、人の感情はむつかしい。


ひとりで子どもを育てている若い珊瑚をみて、がんばっていると応援してくれる人もいれば、勝手な生き方をした結果なのだと冷たい視線を浴びせる人もいる。 美知恵の手紙は痛い。美知恵が何のためにこんな手紙を送ってきたのかは、よくわからなかったが、こんな風に感じている人もいることも現実なのだ。珊瑚は、 この手紙でショックを受けただろうが、自分を見つめ直すきっかけにしている。



母性のない母親に育てられた珊瑚。ネグレクトされた母親に子どもはどう向き合えばいいのか。雪の母親となった珊瑚の名を借りて、作者は、その答えを模索しているように思った。



自然を大切に育てられた野菜。その野菜を生かした料理。美味しそうだった。

<相手がどんなことをやらかしても絶対軽蔑したりせめたりしないんだ。いつも、その人といっしょに考えてくれる>クララさん、素敵な人だ。


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