誰かが足りない


宮下奈都 双葉社 2011年10月

誰かが足りない/宮下 奈都
¥1,260
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足りないことを哀しまないで、足りないことで充たされてみる。注目の「心の掬い手」が、しなやかに紡ぐ渾身作。偶然、同じ時間に人気レストランの客となった人々の、来店に至るまでのエピソードと前向きの決心。

予約を取るのも難しいレストラン・ハライで食事をする面々のそれぞれの内情が描かれている。

誰かが足りないと寂しい気持ちになることは、誰にでもあるだろう。


故郷を出て、大学、就職と8年が過ぎた今、コンビニでバイトととして働いている男。

認知症の症状が現れ始めたおばあさん。

昔は仲良しだったが、成長するにつれ、疎遠になっていた隣の家に棲むヨッちゃんと再会したクミちゃん。

ひきこもりだったのが、ビデオカメラを通して部屋から出られるようになった兄。

ブッフェレストランでオムレツ係をしている料理人。

失敗のにおいを感じることができる留香。


そんな人たちの悩み。そして、その悩みとどう向き合い、克服していったのか。前に歩き出そうとするその一瞬に焦点を当てて描かれている。そして、それが、ハライでの食事へとつながっていくのだ。その構成もいい。



<誰かが足りない。そう感じるときの、さびしさも、怖れも、悲しみも、痛みも、かすかな憂愁の中にある。いつか共にいた人と、いつか共にいるはずの人と。その瞬間を共有している。>


<失敗しても、取り返しがつかないほどに思えても、いつかは戻る。人生を下りることではない。>



失敗しても、悩みを抱えていても、それでも、毎日は繰り返されていく。周りの人たちに支えられ、そして、知らずのうちに自分も支えていることだってある。そうやって、人生を送っていくものなのだ。


ハライで食事する光景を目に浮かべる。ほほえましい気持ちになった。

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