末裔

絲山 秋子 講談社2011年2月

末裔/絲山 秋子
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家族であることとはいったい何なのか。父や伯父の持っていた教養、亡き妻との日々、全ては豊かな家族の思い出。懐かしさが胸にしみる著者初の長篇家族小説。


省三の母親は認知症になり施設に入り、妻は病気で亡くなり、娘梢枝は、仕事と住むところができたからと家を出、息子八朔矢は結婚とみんな家を出て行ってし まい、省三は一人暮らしとなった。あれから、3年経ったある日、家に帰ると、家の鍵穴がどこにもない。家を追い出された省三は、息子の朔矢に相談するが、 どっかのビジネスか、ホテルに泊まるしかないと言われる。しかたなく、何度か行ったことのある居酒屋に入った後、出会った乙という占い師の紹介でホテルブ レクサスへ泊ることに・・・・・

鍵穴がなくなったり、今まで泊っていたホテルがなくなったりと不思議な世界に入り込んでしまう。

公務員の省三は、仕事そのものが打ち込めるものでもない。体を動かす習慣も趣味もなく、ひとりの生活にやる気がない。そんな状態であったが、家に帰れなくなることになり、不思議な世界に入り込み、いろんな妄想を繰り返しながら、自分の家族のこと、親のことなどを思い出す。

父と娘というのは、敬遠されがちだが、話してみれば、案外、いい関係になれるものかも。

省三が、家族のことに思いを馳せ、妻靖子へ手紙を書く。そううち、今まで見えなかったものが見えてくるようになる。家族を見直すきっかけとなったのだ。

省三が、家に帰ろうという強い意志を持てた。それまでの省三の心の動きが描かれていた。

家の鍵穴がなくなることなど、あり得ない話であるが、それは、家に戻りたくない気持ちの現れかもしれない。ひとりで暮らす省三の家は、心がないただの建物だった。しかし、困難を乗り越える強い意志があってこそ、家は本来の姿を取り戻すのだろう。

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