願い

藤野千夜 講談社 2010年10月

願い/藤野 千夜
¥1,680
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可愛い妹が欲しい、元恋人と復縁したい、部下と不倫をしてみたい、とにかく誰かと話したい…。芥川賞作家が掬い取る、街にあふれたいくつもの小さな願いごと。静かだけれど切実な、9つの物語。

1.「あと1つのお願いは何にしよう」不倫がバレて会社を辞めたOL……【願い】
2.「可愛い妹が欲しい」妄想がちの大学生……【妹思い】
3.「大坪さんと寝てみたい」管理職のサラリーマン……【ノーチャンス】
4.「熊になるのは、嫌」母の恋人が気に喰わない小学生女子……【つるとくま】
5.「ちゃんとしたお墓が欲しい」3人の息子を持つ老紳士……【散骨と密葬】
6.「いつかホームランを打ったら」元カノと復縁したい男……【ファウルボール】
7.「友達が泣くところは、みたくない」友情睦まじいアラフォー女たち……【たくさんの荷物】
8.「1週間、電話がかからなかったら、もう死のう」引きこもりのライター……
9.「知子はお願い玉を手に入れた」夢が叶う緑色の玉を大切に持つ少女……【お願い玉】


人との関係の中で、うまくいかないとき、こうなってほしいと願う。
そんなさまざまな願いを描いた短編集。生活の一瞬を捉えたもので、次どうなるのかと想像がふくらむ。

表題作の
【願い】は、奈緒が幼いころ、願い事を3つ叶えてあ げるという祖母。子供心に気を使って、実現可能そうな願いをする奈穂。でも、わがままな妹は実現不可能な願いを言い、祖母が却下すると「嘘つきばばあ」といってなじ る。奈緒は、この間に入って、へとへとになっている。その様子が、それぞれの性格を表していて、家庭の中の一コマを見るようで、ほほえましかった。
この奈緒が大人になって願ったこと、祖母の勘違い?でもそれもいいかも・・・・・

【妹思い】頼れる兄、ほしいなあ。
【ノーチャンス】の大坪さんが、他の章にもでていて、にやり。
【つるとくま】熊?鶴?って何のことかと思ったら・・・・・親の再婚相手は、父親というより、こわいものから守ってくれる人。そこから、はじまる関係もいいかも。
【散骨と密葬】昔のように家が代々続いていくわけではない現代、自分の入るお墓が心配?
【たくさんの荷物】インターネットで知り合う人がすべて悪人なわけはないのだが・・・・
【七日間】待っていないで自分から、話しかけることも必要・・・・
【お願い玉】苔玉。これをお願い玉と信じて大切にしている知子。感謝して信じる気持ちが大切なのかも。

初めて読んだ作家さんであるが、その時その時の心のとらえ方が見事で、生き生きと感じられた。それぞれに余韻の残る終わり方もいい。作者の他の作品、長編も読んでみたくなった。
お気に入り度★★★