決壊


平野啓一郎 新潮社 2008年6月


決壊 上巻/平野 啓一郎       決壊 下巻/平野 啓一郎
      
¥1,890
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会社員の沢野良助は、妻の佳枝と喘息持ちの子供良太がいて平凡な毎日をすごしていたが、良助はネットで、佳枝にも話さない心の内を日記に書いていた。それを知った佳枝は、良助の兄崇に相談し、ネットで、自分の身分を隠して、コメントを書いていた。

エリート公務員沢野崇は、結婚をせず、女性と浅く広く付き合っていた。親や佳枝からも信頼されていた。

中学生の北崎友哉は、同級生の女子の写真をネットに流し、そのことでいじめを受け、登校拒否となる・・・・・・・・




本を手に取ったとき、シロクロの表紙に本の側面が黒いので、それだけで、暗い雰囲気が漂う。

これは、犯人探しのミステリーではない。一字一句、考えながら読み進む本だ。


事件はなぜおきたのか。殺人の連鎖はなぜ起きるのか。良助、佳枝、崇、友哉、そして、犯人。加害者、被害者、その家族たち・・・・・事件に関係人たちの苦悩が描かれているが、いろいろは方面から多くのことを考えさせられる。罪を犯すということ、罪を償うということ、許すということとはいったいどういうことなのだろう。


TVのトーク番組で、コラムニストのとった行動にドキッとした。若者の疑問に体を持って答えている。


PCで、宛名欄にある程度まで文字を打ち込んだときに、予測的あらわれたアドレスに、時間を止められたような感覚を味わう場面があったが、人が亡くなっても生きていたという生の痕跡は、こんなところにもあるのだということ、思わぬところで、はっとすることがあるのだと感じた。


ネットで殺人相手が決まり、共犯者が決まる。誰が読んでいるかもわからないこの世界に、情報を発信することの恐ろしさを感じた。


重い内容で、哲学的な部分は、決してすらすら読める本ではないが、現代の闇を描いた大作であると思う。

お気に入り度★★★★