僕は秋子に借りがある 森博嗣自選短編集


森博嗣 講談社 2008年8月



森氏が自薦した短編集

虚空の黙祷者 小鳥の恩返し 赤いドレスのメアリィ 探偵の孤影 卒業文集 心の法則 砂の街 檻とプリズム キシマ先生の静かな生活 河童 僕は秋子に借りがある




記憶力とはあいまいなものだ。全部の話を読んでいるはずなのに、忘れている。そうだったと思い出しながらの読書となった。森氏が自薦した短編集ということで、どの作品が選ばれているのか興味深いところだ。



赤いドレスのメアリィ

メアリィさんは、実在の人物。当時は、この町にいる人ならみんなが知っていた。私も、何度も会った事がある。ここから、想像力を膨らませ、こういう話が生まれるとは、さすがだと思った。


卒業文集

若尾満智子先生に当てた卒業文集。これを読むと、生徒たちの満智子先生への気持ちがわかり、どんな先生なのかわかってくる。そして、どんな生徒なのかも。



檻とプリズム

小さいときから檻に入れられていたから、それが普通だと考える。ほかの世界を知らない限り、人は自分を標準に考えてしまうのだろう。ここでは、むつかしい概念が述べられているので、理解することはできないが、そういう雰囲気を味わうのにはいい。


素敵な模型屋さん

模型が趣味の森氏だから生まれたお話かな。


キシマ先生の静かな生活

研究がしたくて大学にいるのに、助教授になると、雑用に追われてできなくなる。そんなジレンマをかかえながら、日々をすごしている。その点、キシマ先生は、純粋に研究し、勉強を続けている。作者も、キシマ先生のように、何に束縛されることなく自分の研究を続けたかったのかもしれない。


僕は秋子に借りがある

秋子の純粋な気持ち。こういう人も世の中にいるという、この話で締めくくっているところに、こういう気持ちを忘れないでいたいという表れなのではないか。


短編といえども、ミステリーとして充分楽しめる話あり。自分の興味のあることや、大学に対する考え、そして、難しい人生論まで、多彩な短編集だ。




お気に入り度★★★