ボックス!


百田尚樹 太田出版 2008年7月



電車内で、耀子は喫煙している若者たちを睨み付けたことから争いになる。そのとき、二人の少年がやってきて、そのうち一人が、風が吹きぬけたように若者たちを床に倒れさせた。耀子は、その少年が、耀子の勤務する高校の生徒であることを知る・・・・・・・・・


高校生のボクシング部を舞台に描いた青春小説。


ボクシングの世界がどんなものなのか、ほとんど知らなかったので、アマチュアとプロのとの違いや国体では本当に強いものが出場できるわけでもないという事情など、目新しいことばかりだった。そして、ほかのスポーツと違い、危険性があることも感じた。


登場人物たちを追ってみると・・・・・・


鏑矢

ボクシングの天才。ふざけるのが好きで、下品でバカ。練習を力いっぱいしなくても、勝っていたが・・・・・


優紀

いじめられっこだった。しかし、ある事件をきっかけにボクシングをすることを決意する。優紀のボクシングは、教えられたこと忠実に守り、力をつけていく。弱々しい優紀だったが、練習を重ねることによって、次第に強くなっていく。成績も下がらないという、努力家。こつこつ努力する姿が、まぶしい。


耀子

電車での一件があって鏑矢に興味を持つ。それがボクシングへの興味とつながり、クラブの顧問を引き受ける。

鏑矢が、下品でバカでなかったらいいのにと思いつつも、強い鏑矢に惹かれていく気持ち、女性としてわかるような気がする。


丸野

マネージャー。鏑矢のことを、人前で好きと言えることがほほえましい。そして、鏑矢を見ているだけでなく、ボクシング部の部員たちを同じように熱い目で見ていたことがすばらしい。体が弱く、今までは、こういう経験をしたことがなかったのだろう。生き生きとしてマネージャの仕事をしている丸野の姿が目に浮かぶ。




高校のクラブの顧問の沢木が、今まで自分から進んで教えようとしなかったのには、ボクシングが、生半可なことでできるスポーツでないことを知っているから。その沢木を本気にさせたこの部員たち。挫折を経験しながら、成長していく姿がすがすがしい。


そして、なにより、鏑矢と優紀の友情がとてもいい。


鏑矢と優紀の対決、無敵の稲村との試合はもちろんだが、他の部員たちの試合や練習風景も臨場感があり、ドキドキしながら観戦した。文章で、ボクシングの試合の緊張感をここまで感じさせるとは!


 エピローグで書かれていたその後。優紀らしい、そして、鏑矢らしい将来にほくそえんだ。

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