スロウハイツの神様


辻村深月 講談社 2007年1月


      

<ある快晴の日。人気作家チヨダ・コーキの小説のせいで、人が死んだ。猟奇的なファンによる、小説を模倣した大量殺人。この事件を境に筆を折ったチヨダ・コーキだったが、ある新聞記事をきっかけに見事復活を遂げる。闇の底にいた彼を救ったもの、それは『コーキの天使』と名付けられた少女からの128通にも及ぶ手紙だった。事件から10年――。売れっ子脚本家・赤羽環と、その友人たちとの幸せな共同生活をスタートさせたコーキ。しかし『スロウハイツ』の日々は、謎の少女・加々美莉々亜(かがみりりあ)の出現により、思わぬ方向へゆっくりと変化を始める……。>


チヨダ・コーキのせいで人が死んだとあったが、事件が起きると、大きく報道されるけれど、普通に過ごしている人のほうが多いということ。コーキの天使の手紙に、まったくだとうなずくばかり。いったい、誰が書いたのだろうかとワクワクしながら読んだ。


ところが、スロウハイツに入るきっかけやそこの住民の人間模様が語られていて、なかなか話がすすんでいかなくて、ちょっと退屈に感じた。しかし、ラスト2章で、その思いは吹っ飛んだ。


今まで何気なく読んでいた話の中にいっぱい伏線がはりめぐらされていたことに気づく。

コーキと環が初めて仕事をすることになった時、コーキが、環に対して最初に言ったあいさつの言葉。コーキの浪費家としてのエピソードとしてTVの衝動買い。環姉妹がクリスマスにもらったケーキ。これらの裏にこんな事実が隠されていたとは・・・・・驚きとともに、胸が熱くなるお話だった。


愛を感じるすばらしい作品だ。


才能を秘めた人たちの集まりのスロウハイツ。環の基準は才能と優しさがある人。下巻では、明後日の締め切りにみんなで分担して原稿を書く場面が好き。力を合わせて何かをするという話に弱い。



凍りのくじら の芹沢が登場していて、彼女も活躍しているんだとうれしかった。



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