花が咲く頃いた君と


豊島ミホ 双葉社 2008年3月



四季の花、ひまわり、コスモス、椿、桜をモチーフにした4つの短編集。



サマバケ96

成績のよいユカといまどきの女の子アンナ。アンナの片思いの相手庄司がユカの小学校の同級生だったことから、二人は友達になる。中3の夏休み、二人で遊ぶ計画を立てるが・・・・・・・


憧れの彼のことを友達に話をするのが楽しかった中学時代を思い出した。

恋もしたいけど、それよりも、友達関係を重視したいユカ。ユカは、アンナと友達になって、今までとは違った経験をすることが楽しかったのだろう。本当の友達なら、相手の恋を応援してやるんだろうけど、まだ、中学生。自分と遊んでくれないユカに腹を立て寂しかったに違いない。こういう多感な中学生の気持ちを描くのうまいなあ。ユカとアキオのつきあいって、男女のというより友達に近いような関係だけど何かいいな。





コスモスと逃亡者


賢くない多花良は、母親のいいつけで、コンビニへ買い物に行って、買ってきたものを冷蔵庫へしまうのが毎日の日課だった。ある日、買い物に行く途中、おじさんから呼び止められ、パンと牛乳を一緒に買ってくるように頼まれるが、おじさんは、借金を作って逃げている人だった・・・・


多花良は、知恵遅れかなのかな?でも、家に閉じ込めて、コンビニに買い物に行かせるだけの生活をさせている母親の気持ちが知れない。多花良のラストの叫びがいい。多花良が大きな世界へ羽ばたくきっかけを描いている。





椿の葉に雪の積もる音がする


雁子は眠れない時は、おじいちゃんのところへ行き、布団に入って眠っていた。しかし日常は、何かおじいちゃんに話そうと思っても言葉が見つからない。国語の時間、空蝉という言葉を見て、おじいちゃんの本で見たのを思い出し、椿の本を借りに行く・・・・・


いるときは感じないのに、いざ、いなくなって見ると、その人の存在の大きさを知ることがある。雁子はおじいちゃんが椿が好きなわけを知った時、知らない一面を知ったんじゃないかな。おじいちゃんの言葉を「椿の葉に雪の積もる音がする」をそのまま題名にしたのも風情があっていいな。




僕と桜と五つの春

吉谷純一は、塾の帰り、板塀の空き地に、瓦礫の中に立つ桜の木を見つける。それから、塾帰りには毎日寄るようになる。それから、五度目の春、カハハギを好きになり、空き地で「君があの桜に見えるんだ」と告白するが、それを聞いていた仲間からハシリにされてしまう・・・・・・


カワハギから「話しかけないで」と言われて、それを守っている。自分とはかけ離れた世界にいってもカワハギのことを心配している。吉谷のカワハギを思っている気持ちって純粋なんだな。吉谷が、自分の進路に造園を選んだこと、桜の木が好きな吉谷だから、いい仕事みつけたなあって思った。


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