無痛


久坂部羊 幻冬舎 2006年4月



一家惨殺事件が起きる。その殺し方はすさまじく、情緒欠如の疑いが強いと思われた。刑法三十九条「心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を軽減する」とあることより、捜査員のあいだに重苦しい空気が流れた。一方、為頼英介は、顔を見るだけで、病気がわかる医者であるが、タクシーに財布を忘れる。それを届けてくれた高島菜見子とその息子裕輔を、通行人にむやみに包丁とナイフを切りつける男から救う・・・・・



痛みは、人間に危険を教えてくれる警報。痛みを感じることを感謝しなくては・・・・



刑法三十九条。精神の病気のものを守るための法律。

これは、本当に病気のものには必要であるだろうけど、それでも、加害者が何の償いもしなくてもいいなんていうのは、被害者の気持ちは治まらないだろうな。この法律を利用して悪事を働くなど、言語道断。精神科医も本当のところはわからないというのは、どうかと思うなあ。


見ただけで、病気がわかる。犯人がわかる。こんな能力を持った人がいたら、どんなにいいだろう。

でも為頼は、「病気が見える医者ほど役立たずはありません。」と言っていた。為頼の持論は理解できないなあ。

その人にあった治療ができるではないかと思うのだけど・・・・・


医療は科学というのに対し、病院を頼りに見せかけるという幻想のどこが悪いかといいはる白神。快適な病院を作るというのはお金もちのためということで反感を持つが、病院に対する新しい発想も必要かも。


いろいろな問題を提起している小説だ。



病気や悪人を見分けられる為頼。六甲サナトリウムで働く心療法士の菜見子。離婚した菜見子が忘れられず追い掛け回す佐田。快適な医療をめざしている白神。無痛症のイバラ。自分が殺人犯だと告白し施設を脱走した14歳のサトミ。刑法39条に強い疑念を持ち捜査を続ける早瀬。

なかなかいい素材の人たちが登場する。そして、関係のないようにみえるこの人たちの話がつながった時には、おおと感心させられる。


にもかかわらず、私は、話に乗り切れなかった。

無理な筋書きに思えた部分も。たとえばサトミ。いつ、どうしてそうなったのという展開だった。


グロテスクな表現が目立ったが、私にはだめ。

お気に入り度★★★