- 夢を与える
綿矢リサ 河出書房新社 2007年2月
フランス人のトーマは、幹子と別れようとしていたが、子どもができたことから結婚する。二人の間に生まれた夕子は、虹から生れ落ちたかのような、現実離れしてかわいらしい完璧な赤ん坊だったので、チャイルドモデルとして活動を初め、スターチーズのCMのイメージガールとして、半永久的に契約するが・・・・・・・・・・・・・・・・
チーズのCMで一躍ブレイクし、徐々に名を知られるようになっていく夕子の生まれてから、18年間芸能界で活躍する姿が父母の不和の悩みとともに描かれている。
この幹子という女性が、強引にトーマに結婚に持ち込んだやり方から好きになれなかった。そして、夕子のマネージャーとして、夕子を見守っているが、自分の夢を押し付けているように感じた。
生涯続くCMの契約。親として、私はこういうことをしてはいけないと思う。ある程度の年齢になったら、自分のことは自分自身で決めること。それなのに、大きくなっても、縛られてしまうようなことはしてはいけない。この母親は、娘に対して一生懸命なのはわかるが、自分の夢をすべて夕子の託しているようなところが好きになれなかった。
だが・・・・・・・・
こういう母親に対するもどかしさを感じさせることも作者の意図なのかもしれないと思えてきた。
忙しいスケジュールのなかでも学校に行くが、学校の中では、孤立している。有名になれば、裏で悪口をささやかれることもある。夕子のように小さいときから芸能界で働いている人はいる。
芸能界という世界は実際にどんなところかは知らないが、ここで描かれているような出来事は、日常茶飯事で珍しいことではないのかもしれない。
インタビューを受けるときも、自分のことを話すのではなく、どういうことを言えば喜んでくれるか、それを考えて話す、それがプロということで、夢を与えているということになるのではないか。そう、作られた存在をずっと演じることが仕事なのではないか。
夕子は、今まで、いいなりになり、どこか人形のような存在であったが、自分の意志を持ったとき、まわりからの冷たい仕打ちを受けることになる。
彼女は、誠実に生きようとする。たとえそれが、アイドルの終わりであってもしかたのないこと。これからは、自分の足で、生きていかねばならない。これからどうするのか書かれてないが、今が夕子にとって脱皮した時期であることに違いはない。
ラストの握手の場面、ざわざわした感覚が強く印象に残った。
夕子は多摩という少年の家を訪れたことがあったが、彼の存在がどれだけ、彼女の心を癒してくれたことか。今はどうしているのだろう?
お気に入り度★★★★