夜想


貫井徳郎  文藝春秋 2007年5月


愛する妻子を交通事故により自分の目の前で焼死させてしまった雪藤直義は、その苦しみから立ち直れないでいた。定期入れを拾ってくれた女性が、自分にシンクロして泣いてくれたのをきっかけに、その女性、天美遙の不思議な能力を知り、彼女を応援していくことを決意する。一方、子安嘉子は、娘亜由美を心配して干渉するが、亜由美は家を出て行く・・・・・


最初は、純粋に天美遙を応援しようとした行為が、その集まりが大きくなるにつれ、組織化が必要となり、宗教と勘違いされたり、お金を必要とし資金集めにまわったりと自分の思っているような活動とは、違う方向に向いていく様子など詳しく書かれていて、雪藤の葛藤がリアルに感じられた。


人を助けたいという純粋な気持ちからはじめたことなのに、組織となるとむつかしいものなのだと思った。


人にはない能力を持つ天美遙の悩みも、共感できた。


そして・・・・・・・

話は、そんな宗教の話にとどまらない。ラストに近い部分では、思いもよらぬ展開があり、さすがだと思う。



<直視できないほどの悲しみならば、目を向けなくてもいいと思います。逃げたっていいんです。>

<悲しみから意識を逸らすには、楽しい気分で心を上書きしてしまえばいいんです。>

<自分を救うのは自分自身しかいません。>


遙、雪藤の講演会の言葉が、身に沁みた。

人は苦しみから逃れるために、救いを求める。しかし、人に頼るのではなく、救えるのは、自分自身しかない。これこそが、作者の言いたかったことのように感じる。



それにしても、子安嘉子の愛情の押し付けにはうんざりだった。


悲しみが大きすぎると、幻想を見てしまうのかもしれないな。

気に入り度★★★★