八日目の蝉


角田光代 中央公論新社 2007年3月


八日目の蝉/角田 光代
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野々宮希和子は、不倫した相手の留守宅に忍び込み、赤ん坊を見るだけのつもりが、誘拐してしまう。薫と名づけ自分の子として育てるが・・・・・・・・

1章は、希和子の視点で、2章は、誘拐された子どもの視点で書かれている。


自分が産めなかった子どもを思い、連れてきてしまった赤ん坊にその子への思いを重ね育てる希和子。オムツの替え方も、ミルクの作り方も知らない希和子であったが、赤ん坊を大切にする気持ちは、本当の母親と変わらない。いえ、それ以上だったのかもしれない。希和子のしている行為は、犯罪には違いないのだが、愛情を持って育てているので、つかまらなければいいが、と希和子を応援していた。


しかし、犠牲になったのは、喜和子に育てられた子ども。逃亡生活とはいえ、希和子に育てられていたときは、愛情たっぷりだったし、まわりの人たちからもかわいがられ、友達もできて幸せだったかもしれない。しかし、実際には、そんな生活がずっと続くわけがない。その生活の中にいたときより、その後が辛い。


2章で、恵理菜(薫として育てられた子ども)の苦悩が心に刺さる。

本当の親の元に返った恵理菜だが、恵理菜のとって、急に現れた両親を慕うことができず、両親からも、恵理菜をどう扱っていのかわからず、戸惑う。しまいには、やっかいもののように扱われ、家は掃除もされず、食事も用意されてないような状態。また、世間からは好奇の目でみられる。それを思えば、希和子と暮らしていた方がどれだけ幸せだったのかと思ってしまう。それこそが、苦悩の原点なのに。

希和子と同じ様な人生を歩むのではないかと悩む恵理菜の気持ちが痛々しかった。


けれど、ラストには、明るく生き抜こうとする姿があってほっとできる。


7日目で死んでしまう蝉が8日目を生き抜いたということからつけられた題名も見事。

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