失われた町


三崎 亜記  集英社 2006年 11月


町の消滅は、何百年御前から起こっていたと言われている。原因がわからず、本当のことが何ら知らされぬ中で、町の消滅に関わることや話題にすることを忌み嫌う「穢れ」の意識が、国民の中に広く浸透していた。・・・・・・・月ヶ瀬の町は、消滅した。茜たちは、この町のすべての地名、そして住んでいた住民の痕跡を消し去ろうとする仕事をしていた・・・・・・・・

町が、自分の意志を持って消滅してしまうという設定、おもしろいなあと思う。住民は、誰にも、話をすることもできず、悲しみを表すことができず、無表情なのだ。あまりにも大きな喪失感のせいで、悲しみを感じることができない。悲しみを表すことができない。また、消滅に関係したことで、差別を受けることもあるのだ。残されたものの苦悩と、町の消滅を食い止めようとする人たちの戦いの姿が、とても切なく迫ってきた。


町の消失だけでも、奇抜な設定なのに、読んでいくうち、いろんな新しい出来事ガ出てきて、消滅耐性、居留地、自己同一性障害分離者等、ついていくのがやっとで、話を理解するのに時間がかかった。しかし、読み返してみると、なるほどと思えてきた。


家族を月ヶ瀬で失った中西さん。彼のペンション「風待ち亭」。その意味は、あなたの新しい人生に風が吹いてくるまで、しばしこの宿でおくつろぎください・・・・・・とてもいい名前だな。


国選回収員に選ばれた茜と、月ヶ瀬町で、大切な人を失った和宏との恋。意識が、今のままである和宏をずっとそばで見守り続ける茜もたいへんだろう。


管理局に勤めるの桂子さん。「特別汚染対象者」という事で、恋人と別れるが、新しく写真家の脇坂との出会いがある。「澪引き」という言葉、魅力的だった。


恋人を町の消失で失い、そのために、町の消失を食い止めることに命をかける由佳。こういう人生もあるのだ。その由佳の恋人役を務めた勇治は、由佳に利用されてどう思ったのだろう。


生き残りの少女、のぞみ。自分が実験台にされていること、信頼されていた人たちにだまされ続けていたことに悩む。けれど、彼女ではないとできないことに意味を見出すのだ。



脇坂さんが言う。「おれは明日死んでもおかしくない場所にばっかり行っているからな。だからこそ、明日失われてもいいように、今日精一杯求める相手と求め合いたい。そう思って毎日を生きているんだ」

誰もが、決して幸せなわけではない。けれど、おかれた状況の中で、必死に生きようとする人たちの姿に心奪われた。

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