些末なおもいで


埜田杳(のだはるか) 角川書店 2006年11月



眠れない夜の底にいる桧山は、結露に濡れる窓を開けた。そのときふいに声をかけられる。それをきっかけに矢鳴と高校でも話すようになる。桧山、矢鳴にキューピーさんも加わり、園芸部の焼き芋大会でいっしょにすごすが、矢鳴は、「あれ」という奇病にかかる・・・・・・・


死に至る過程を私的な感覚で表現してる。奇抜な表現だが、病に侵されて日に日に命が消えていく様子を体の一部がなくなっていくことで表現していて、目に見えることなので、衰弱していく様子が鮮明にわかる。

矢鳴が、自分の病気のことを桧山に話したのは、自分を少しが知っている誰か、、自分を深く知らない誰かだから、自分が選ばれたのだと思っているようだけど、桧山だからこそ話をしたのだと思う。彼らには、どこか共通するものがあったから、気があったからに違いない。


自分の価値は自分で決めるのではなくて、他人から教えられる。それは、仕方のないことかもしれないけど、悲しいことだと思う。キューピーさんは、好きか嫌いかを自分で決めると言い切る。強いように思うけど、彼女はそうすることで、孤独なのだ。


そんなキューピーさんにも、心の闇があったわけであるが、彼女の存在がこの小説にとって、いい役割をしていると思う。信じることができるようになったキューピーさんにほっとする。


矢鳴は、奇病に罹り死んでしまう。矢鳴がいなくなっても何も変わらない。それなのにその後、流れ続ける日常に生きる桧山。いつかは忘れていく記憶であろうことを哀しく残酷に思っている桧山の気持ちに共感できた。


酷評も多いようだが、私は、この感覚、きらいでない。

お気に入り度★★★★