モノレールねこ

加納朋子 2006年11月 文藝春秋


家に遊びに来る太ったねこ。“このねこのなまえはなんですか?”と書いて、ねこの赤い首輪に押し込んでおいた。数日後、違う紙がはさまっていて、“モノレールねこ”と書かれていた。それから、モノレールねこを通じて、文通が始まった。・・・・・・・


ねこの首輪に手紙をつけての文通。電話やメールの時代だけど、こういうかかわりっていいな。「モノレールねこ」


「パズルの中の犬」心に傷を負った人。今までその記憶を封印して生きてきたのが、あることをきっかけに思い出すことになり、昔の自分を見つめなおすと言う、ストーリー。希望のある終わり方がいい。


「マイ・フーリッシュ・アンクル」では、“典型的なダメ男のテツハル叔父”「ポトスの樹」では、“ロクデナシのクソオヤジ”と、どうしようもない家族を描いているが、当人には、深い事情があったのだ。「シンデレラの城」の義母さんとの新しい関係も含めて、これからの家族のいい関係が目に見えるようだ。


「セイムタイム・ネクストイヤー」では、1年に一度、同じ部屋、同じ部屋に泊まろうとする客。その客のためにホテルの人がしてくれた好意にほろっときた。また、「ちょうちょう」では、「最後の一葉」の話が、思い浮かんだ。この2作では、人を勇気づけるうそは、いいものだと思う。


最後の「バルタン最期の日」は、一風変わっている。公園の池に住む一匹のザリガニが主人公。そのザリガニが、小学生のフータにつかまえられ、バルタンと名前をつけられ、飼われることになる。バルタンはフータの家族のボヤキを聞くことになる。そして、最期には、自分の命をかけてフータの家を守るというお話なのだ。発想も奇抜だし、ザリガニからみた家族の様子が、ほほえましく描かれていておもしろい。


人とのふれあいが、人の心をやわらげていく。どれも、心温まるお話ばかり。装丁も淡い色調で好き。

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