風に舞いあがるビニールシート


森絵都 文藝春秋 2006年5月

「器を探して」 仕事の上司のヒロミと恋人の高典。二人の板ばさみに会って、弥生は・・・・・・
おいしいケーキを食べると幸せになる、私もそうだ。弥生をとりこにしたヒロミのケーキ、どんなのだろう。食べてみたいなあ。

「犬の散歩」 捨てられた犬を預かり、里親を探すボランティアをしている恵理子。フード代ワクチン代のためにスナックで働く・・・・・
その人にとって何が重要なのか。ランチをすること、エステに行くこと、犬のためにお金を使うこと、人それぞれでいいんだと思う。
「犬は私の牛丼です」――ええっと思わせておいて、あとで納得させる。さすが。

「守護神」 レストランで働きながら、大学に通う裕介は、レポートの代筆をしてくれるというニシナミユキを探す・・・・・
こう書くと、裕介が怠け者のように思うがそうではないのだ。この話の展開が意外だった。
ニシナミユキは、こだわりがあって、だれかれなしには、代筆してくれないようだ。働きながら勉強するって大変なことだと思う。 金次郎のキャラクター、売り出したら、私買うのに。

「鐘の音」 仏像を修復する仕事をする潔は、 無口で社交性に乏しかった。ある日、師匠を怒らせてしまう・・・・・・・
潔の人生は変わってしまうが、それはそれでよかったんだと思う。

「ジェネレーションX」 健一はクレーム処理のためアニマル玩具の社員と一緒に、宇都宮まで誤りに行くことになった。このアニマル玩具の社員が、道中に話す耳障りな私的な電話、それが、実は ・・・・・・
他からみたら、バカらしいと思うことでも、本人たちにとっては大切なこと。約束を守って・・こういうお話いいなあ。

「風に舞いあがるビニールシート」国連難民高等弁務官事務所に勤務するエドの死の知らせをうけてから3ヶ月、同じ職場であり元妻の里佳は、何もするにも上の空で身がはいらなかった・・・・・・
この短編集の中で、一番、インパクトのある作品だと思う。家庭のぬくもりで包み込んであげたいと願う里佳。エドはそれを望んではいなかった。苦悩する里佳。しかし、エドは心のそこでは、人のぬくもりをほしがっていたんだと思う。それを素直に受け入れる術を知らなかっただけなのだ。悲しいけれど、力強い作品だ。

一見つながりのない6つの物語。しかし、それぞれの主人公が、自分の価値、こだわりを見出して、充実した人生を送ろうとしている。そんな主人公たちの奮闘ぶりに元気をもらった気がする。そう、森絵都さんの作品を読むと、いつも元気をもらう。だから、好きなのだ。

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