ミーナの行進


小川洋子 中央公論新社  2006年4月


母は東京の専門学校で勉強することになり、小学校を卒業した朋子は、芦屋に住む叔母夫婦の家に預けられることになった。芦屋には、飲料水会社の跡取り息子の伯父と、伯母、伯父の母であるドイツ人のローザ伯母さん、お手伝いの米田さん、庭師の小林さん、従妹のニーナ、ペットのポチ子が暮らしていた。新幹線で、岡山からひとり芦屋にいった朋子は、みんなから歓迎される・・・・・・・・


芦屋で過ごした1年間を朋子が思い出して書いている。その時その時の情景が目に浮かぶようだ。


庭にはカバのポチ子がいて、体の弱いミーナはポチ子に乗って登校。光線浴室で光線を浴びることが健康よいと信じている。裕福で、ちょっと変わった人たち。しかし、自分とは関係のない人の死にも黙祷を奉げるなど、心優しい人たちなのだ。


ミーナは、体は弱いけれど、本が大好きで、利発な子ども。ミーナが集めているマッチ箱。その挿絵がかわいかったし、それにまつわる物語もすてきだった。また、ミーナが書いた猫田選手への手紙には感銘を受けた。


少女の淡い恋もいじらしい。朋子は自分の感想でないにしろ、とっくりさんと本の話をすることが本当にうれしそうだ。また、ミーナの水曜日の恋も、応援したくなる。朋子がミーナの恋のことで心を痛める場面はほほえましく思った。


ミュンヘンオリンピックなど、実際の出来事の話も出てくるので、そのときのことが懐かしく思い出され、自分が、今登場人物たちと同時に生きた気持ちになった。


朋子のとっては、芦屋で過ごした日々は、今までとは全然違う夢のような生活だったに違いない。朋子がその日々を大切に思い、慈しんでいる気持ちがひしひしと伝わってくる、そんな心安らぐ小説だった。

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