私が最も愛している童話「ムーミン」。
フィンランドの作家、トーベ・ヤンソンの作品です。
今日は、このムーミンシリーズの中の「目に見えない子」というエピソードをご紹介します。
◆声と姿をなくしたニンニ
お話は、ムーミン一家の元に、透明な女の子「ニンニ」が預けられるところから始まります。
声も出せず姿も見えないので、首に付けられた鈴だけが、彼女の存在を知る手がかりです。
ずっと以前は、ニンニも普通の女の子でした。
ところが、お世話になっているおばさんから、毎日意地悪な皮肉を浴びせられているうちに、姿が見えなくなってしまったのです。
そんなニンニを、ムーミンたちは暖かく迎え入れます。
やがて、少しずつ姿を取り戻していくニンニ。
靴、洋服、髪飾りのリボン・・・
◆闘って自分の顔を持つ
ところが、いつまでも顔だけが見えないままです。
全てに受身で、逆らうこともできず、いつも怯えてばかりのニンニ。
そんなニンニに、ちびのミィは怖い顔をして言いました。
「この人はおこることもできないんだわ。」
「それがあんたのわるいところよ。
たたかうってことをおぼえないうちは、あんたにはじぶんの顔はもてません。」
ミィ、深いことをさらっと言い放ちます。
◆私はここにいるわ!
ある日、意地悪なスティンキーに騙されて、洞穴に閉じ込められたニンニは、大きな声を出して助けを求めます。
「助けて!私はここよ!ここにいるわ!」
ニンニが、初めて自分の存在を人に知らせようとした瞬間です。
思いきり大きな声で、叫び続けました。
その声を聞きつけて、ムーミンがニンニを見つけ出します。
入り口の大きな岩を取り除き、手を差し伸べるムーミンに、ニンニはイキイキとした声で答えるのです。
「大丈夫!私ひとりで出られるわ」
◆感情を表現する
随分明るくなり、おしゃべりも出来るようになったニンニですが、まだ顔だけが戻りません。
ある日、ムーミン一家はニンニと一緒に海辺に遊びに出かけます。
初めて海を見たニンニは、その大きさに怖気づいて、泣き出してしまいました。
ところが、ムーミンパパが茶目っ気を出して、ムーミンママを桟橋から突き落とそうとしていたのを見つけたニンニ。
パパのシッポに思い切り噛み付き、心の底から激怒して叫びます。
「おばさんを、こんな大きな怖い海につきおとしたら、許さないから!」
その瞬間に、小さな怒った可愛い顔が戻ってきたのです。
◆ありのままの感情を味わう
ニンニは、自分の感情を素直に表現したことで、自分の顔を取り戻すことができました。
たとえそれが、ネガティブな感情であってもです。
声の悩みを抱える生徒さんの中には、「このまま消えてしまいたい」と訴える人も少なくありません。
自分を否定し、感情を拒否し、自分を消し去って生きたいと願っているのです。
あまりにも、もったいないと感じます。
自分自身の感情にフタをしていては、自分の命の輝きに対して、嘘つきになってしまいます。
自分に嘘をつきながら「いい人」という評判を得ても、それが何になるというのでしょう。
けっして、イキイキとした生命力に溢れる人生はおくれません。
どうか、姿を消さないで!
闘って、勝ち取って、自分の顔、自分の感情、自分の声で堂々と生きて行きましょう。
「私はここにいる!!」と高らかに宣言しながら。
(2011年5月23日発行号より)