『 米国で虫垂炎+腹膜炎になりました 』 | 脱奴隷小児科医の刹那主義

『 米国で虫垂炎+腹膜炎になりました 』

寒暖の差が著しいここ大阪ですが、いかがお過ごしでしょうか。


先日は東京まで学会へ行ってきました。
新幹線でトンボ帰りでしたが、なかなか楽しめました。
恥ずかしい話、国会議事堂を初めて生で見ました。
警察官がいっぱいいました。


まあ、いいや。


本日は余計なことは書かないで、本題へいってみたいと思います。

現在アメリカに留学中のある消化器内科の先生のお話です。

転載可ということなので、興味のある方は読んでいただきたいと思います。
( 『 』内は全て引用です )


『 米国で虫垂炎+腹膜炎になりました

  日本での医療訴訟の報道が余りにもひどいと思い、今回初めて投稿させて頂きました。
  自分自身に起きたエピソードを通して、日本の医療が他国 と比べていかに恵まれているか、
  少しでも多くの人に伝われば幸甚です。以下は渾身のノンフィクションです。
  当時書いてあった文章をそのまま貼った方が臨場感が伝わると考え 、あえて丁寧語ではなく
  口語文のまま掲載させて頂きます。

  *******************************

  10年以上日本で消化器内科として働き、現在米国に留学中ですが、2年前に虫垂炎+腹膜炎に
  なりました。

  土曜夕食後に急に結構強い心窩部痛を認めましたが、放置。
  日曜朝、パンを食べただけで増悪し、痛みが下腹部に移動し、圧痛とそこそこの反張痛、
  39℃台の発熱もあったので、appeを疑い、20時に夜間診療所(Night time care)に行く。
  本当はそこで抗生剤を点滴してもらって、月曜に消化器の医者に見てもらいたいと簡単に考えて
  ました。そんなに人が待っているようには見えなかったが、22時にもう一回来いとのことで、
  その時間にもう一度行く。iPadほどの大きさの機械の面倒くさい問診票を手渡され、30分かかって
  腹を抱えながら何とか記入。

  その後もしばらく診療室で待たされ、入って来た看護婦さんが友人と並んでいる私を見て微笑み
  ながら「どっちが患者なの?」と軽いジャブを。一見してわかるでしょうが…。そ の後尿検査した
  あと小一時間待たされ。どう見ても混んでるようには見えないんですが…。やっと医者が来て。

  米「どんな痛み?」
  日「colic pain.」
  米「(ちょっと驚いた顔で)面白い表現をするねぇ…。」
  日「日本で医者やってました。」
  米「専門は?」
  日「消化器。」
  米「じゃあ診断は?」
  日「たぶんappe。」
  米「じゃあそこで跳んでみて。痛い?」
  日「響きます。」

  何て感じで。触診とdigitalやったあと(採血、エコーなどはせず)、

  米「ビンゴ。」「じゃあope。」

  えっ…

  (採血、エコー、レントゲン無しで診断です。診断できたこと自体は驚きませんが、問診、触診
  だけで言い切ってしまう辺りに感服しました。自分なら虫垂炎の「疑い」があるので救急病院へ
  紹介しますと言いますが…少なくとも自分なら見えなかったとしてもエコーはやりたいと
  思います。)

  いきなり!?点滴で散らすんじゃあないの?
  (このときperforationしてるとは思ってませんでした)

  米「ope。救急病院に行ってもらうから。紹介状書くから」
  日「今から行くんですか?」
  米「今。」
  日「じゃあ友人の車で行きます」
  米「ABSOLUTELY NO!!!!!!!!」

  日「…だって救急車代が高いから…」
  米「診療所からは只だから」

  ということで日米通じての救急車デビュー。今まで患者の付き添いはありましたが、自分が
  横たわって行くのは行きでは初めてでした(患者が降りた帰りに救急車内で寝て貰ったことは
  何度かありましたが)。

  日が変わって月曜0時に救急病院のERに行くと
  「CT撮るからこれ飲んで」と言われ、目の前にガストロ1ℓ。皆様ガストロ1ℓ飲んだことおありで
  しょうか?まずいです。造影剤は静注だけでいいだろうと(自己)判断し、100ml飲んだ後は
  ガストロ放置。

  一時間後、技師らしき人が来て

  「何で飲んでないんだ!」
  「おなかが痛いから(本当はまずいから)。」
  「痛み止め静注するから飲め!」

  泣く泣く全部飲みました。そんなことせずにさっさとOpeしてくれたらいいのに。静注だけで
  わかるじゃん!

  結局運ばれて4時間後にCT撮影。遅っ。perforationしてるのに。その後Opeは朝6時からという
  ことに。
  外科医…太ってました。彼のズボンは私2人入ります。自分のappeはどうするんだろうかと
  心配です。

  ムンテラ手術を受ける前にムンテラとか全くなし。一言「laparoでやるから。今日夕方には
  帰れるよ。」今日夕方?ちょっとオツムが弱いかなーアメリカ人。本当か?

  「かみさん呼んだ方がいい?」
  「お前で十分。お前が判断能力ある訳だから」

  いいなぁアメリカ。この日米の違いはなんなんだ。
  ていうか、俺に事故があったらどうするんだろうか。

  先生の言う通り、ムンテラの代わりに、契約書にサインをさせられました。英語なので読まずに
  サインしようとしたら、友人が「先生、一応読みましょうよ」

  ごもっとも。

  でも読んでも、手技に関する記載は一切なし。それこそ、「私、訴えません」って感じのヤツ。
  これでいいのか!?

  サインする前後(Ope前)に、さっき撮ったCTを見せてくれとお願い。すると「フィルムは上の階に
  あるので持って来れない」

  それ通用するのか?

  「ここのPCでみるか?」

  ええ、そうします。

  さぁーっと見ましたが(さぁーっとしか見れませんでしたが)、周囲脂肪織の上昇はすぐわかった
  けど、free airは大きいのはなし。abscessはよう分からんかった。このときperforationして
  いるようだと説明あり。

  まぁappeは自分で診断ついてたし、Opeは不可避だってわかってたし。この年で発症ということが
  受け入れられなかっただけで。まぁ腹膜炎なしでもOpeは妥当かなと思っていたので、サインして
  お願いすることに。

  その後麻酔医のほんの2~3分のムンテラ(というより家族に悪性症候群の人がいないかどうかの
  簡単な問診のみ)後…意識が戻ったのはOpe後2時間後。
  いつ麻酔を打ったんだ?
  自分の中ではOpe室に入って少ししてから麻酔がかけられると思ったのに…ショック。
  Ope室見たかった…
  極端な話、局麻下のもと一通り見たかったです。

  主治医「思ったよりabscessがひどかったから退院は明後日水曜日ね。」痛い訳だ。
  というか、そもそも同日夕方退院って最初から無理だろ。

  かみさんからは入院前に「わたしは痛みに慣れているけど」と言われ、「生理痛と一緒にすんじゃ
  ねえっ!」と言ったら「生理痛をバカにすんじゃねぇっ!!」と怒られたが…どう考えてもappeの
  腹膜炎>>生理痛だろう。一応WBCも17,000だったらしいし。

  ちなみにCRPは一回も測ってないようでした。ここら辺はアメリカの医療に同意。
  高いに決まってんもんね。

  さあここからが大変。

  2人部屋の廊下側のベッドに寝せられて。トイレは反対の窓側。
  腹が痛い。切る前より痛い。どう考えてもOpe前より痛い。一時間のOpeだったのでバルーンは
  入ってない。

  看護婦「トイレに入ったら力まないように。」

  力めるかっっていうの。

  正直に言います。バルーン入ってたほうが楽だと思う。
  最初の一滴を出すのが辛い。トイレに入ってしばらくしゃがんで我慢しつつ用を足してると、
  外からノックが。

  看「Are you O.K.??」

  O.K.……なわけないだろっっっっ!

  やっとの思いでトイレから出てくると

  看「お前はいつもこんなにトイレが長いのか?」

  お前…日本に来てappeで緊急入院したら復讐してやる。どうしてくれよう。

  点滴台を支えにして、体を引きずるようにベッドへ。ベッド上に乗るのも痛みとの孤独な闘い。
  飯はorderするシステムで、メニューは豊富。当然粥なんてなし。また、何食べちゃ駄目という
  説明全くなし。
  元気なら術後一日目にしてステーキ食っても良し。

  …とても食べれません。もう寝るだけ。水もいらん。

  二日目。

  夜普通に39℃台。でも熱は平気。痛いのが辛い。この痛さ、例えるなら下腹部に鉛の放射線
  プロテクターが折り畳んで入ってる感覚。

  看「今日は歩いてみよう。」

  もう好きにして下さい。

  まぁOpe日に比べたらましなので、一応歩ける。歩くのはいい。排泄が苦痛。

  三日目。

  夜普通に39℃台。
 
  看「何でこんなに熱が高いのかわからないわ。」

  洗い方足んなかったんじゃあないの?こちらはドレーンは入れないのが当たり前だとか。
  それはいいけど、abcsessがひどかったのにlaparoで終わらせて、ドレーン留置せずに終わって
  「何でこんなに熱が高いのかわからない。」

  普通は洗い方足んなかったと思うでしょう。当然(?)退院は延期に。この日も病棟内を歩く。
  部屋の外には部屋番号の下に"low"のシールが。
  聞くと、lowは軽症の患者だとか。確かに扱いは一部lowだったかも。看護婦さんは総じて
  良かったけど。

  四日目。

  夜は38℃台に。でも早朝にculture-up.ワンテンポ遅くない?
  もう使ってないルートを抜いてくれというと(抗生剤が内服に切り替わったので)使うかもしれ
  ないから駄目だって。
  アメリカ大した事ないなぁ。も一回入れりゃあいいじゃん。因みに入っていた場所は右肘の正中。
  他にもあるだろうに。

  採血は毎日。でも結果は聞かないと教えてくれない。
  朝CT撮るとの事。またガストロか?と震えたが、結局単純のみ。

  いつも夕方5時前後に4~5分来る主治医はこの日昼に来て、fluid collectionがあるからpuncture
  すると言う。もちろん本人ではなく放射線医が。
  看護婦さんにいつ頃?と聞くと分からないが呼ばれたら知らせるとのこと。その日、結局呼ばれず
  就寝。

  五日目。

  早朝

  看「punctureはどうだった?」
  
   …やってません。

   「Really!?」

  別にこちらは驚きません。アメリカに一年住んで、慣れました。約束の日に事が済むと奇跡だと
  友人は言ってたし。朝7時に透視室に(慌てて?)呼ばれ、punctureすることに。もう熱は解熱
  傾向だったけど。

  何か英語でいろいろ言ってるけど、要はまずpunctureして、場合によってはドレーンを留置する
  という事。
  まぁappeについてある程度の知識はあったので、何とも思わなかったけど。
  エコーで20mlぐらいのfluidを確認して(簡単そうな場所。傍結腸ですね。)アルコール(?)で
  消毒して…

  ブスゥッ!

  いっってぇ。そのあと、十字切開。

  吸った液は濁ってなかったのでドレーンなしで終了(結局十字切開は必要なかった)。
  また腹が痛くなった。歩くのがまた辛い。
  それより、頭が痒い。清拭はないし。
  自分で勝手に行きましたよシャワー室に。当然バスタブなし。
  シャワーぬるいし。おまけにシャワーヘッドとれるし。

  右腕はルートが入っていて、テガダームなどのprotectionはなかったので片手で頭を洗うはめに。

  入院生活は日本に限ります。

  術後6日目にしてようやく退院。いい経験でした。

******************************

  こんな文章を載せて我ながらしょうがないと思う反面、アメリカでの一連の診療をお伝えする
  ことで、少しでも日本の臨床現場が素晴らしいことと再認識される日を願ってやみま せん。

  ご清聴ありがとうございました。 』





  ちなみに費用のほうは、


 『 それから、かかった費用ですが、正確には入院した病院の請求は$12411.35でした。
   なので、夜間診療所の費用を含めるともう少しかかります。幸い、自分負担は$37 .50でした。』


  気になる保険のほうは、


 『 アメリカの保険はおおざっぱに言うと2種類あります。

   PPO(Preferred Provider Organization)というタイプとHMO(Health Maintenance Organization)
   というタイプです。違いは PPOはどんな専門分野のドクターでもネットワークの中から自分で
   選べるのに対して、HMOは必ず主治医を指定して、主治医を通さないと他の専門のドクターに
   行けないという点です。 一般的にはHMOの方がPPOより自己負担額が少なくて済むようです。

   今私が属している留学先では、Visiting fellowという身分の研究者は Blue Cross/BlueShield
   というPPOの保険に加入させられます。私の場合、有り難いことに 本人及び家族全員分の保険料
   (個人では$413/月(約32,200/月)、家族で$896/月(約70,000/月))を留学施設の方で支払ってくれ
   ています。保険のグ レードがすごく良いらしく、どこを受診しても日中であれば、Co-pay$10を
   支払うのみです。但し、歯科は範囲外ですので別の歯科保険を任意で加入する人もいます。 』

 
  とのことです。


 『 私はたまたま恵まれていただけで、保険が利かなかったらと思うとぞっとします。

   この現実を医師の間だけでなく、少しでも多くの日本人に知ってほしいと思います。
   アメリカではとにかく保険料が高いのです 。保険に入れない人々は一度病気になったら、
   社会復帰は日本とは比べ物にならないほど非常に難しいのです。 』

  


  貴重な体験談ありがとうございました。



  何とか今の日本の保険制度を維持してほしいものですが、無理なんでしょうねぇ。

  TPPによる影響で、もし日本の国民皆保険制度の囲いが破れたら、どうなるんでしょうか。

  いや、すでに内側からヒビが入ってきているようですな。

  外から割り易いようにするためかもしれません・・・