バンコックで遭難した話1 | 吉澤はじめ MY INNER ILLUSIONS

バンコックで遭難した話1

父が死ぬ数ヶ月前に、タイで遭難した。

フランスへ向かう途中のトランジットで、
バンコックの空港に立ち寄った。
10時間以上の待ち時間があって、最初は寝たふりとかしてやり過ごそうと思っていたが、そのうち我慢の限界が来た。
同行したK君と相談して、空港の外に出て、ご飯を食べたりお土産とかを買おう、という話になった。
空港の外に出たとたん、むせ返るような熱気と鼻をつまんでも体中にしみ込んできそうな匂いに、失神しそうになった。
これがタイの空気かー!
と感動しながら、ものの5分も歩くと市場にたどり着いた。
魚、肉、野菜、穀類,,,あらゆるものが積み重なるように並べてあって、それらが混じりあった匂いはさらに強烈だった。
行き交う人々の活気あふれる姿や、土煙を上げながら二人乗り、三人乗りで通り過ぎるバイク。
市場周辺の充満したエネルギーにひとしきりやられた後、なるべく無難そうなレストランでタイ・カレーのようなものを食べた。
K君も僕も、はじめて見る異国の人々のリアルな暮らしぶりを目の当たりにして興奮していた。

やがて日も落ち、
たいしたみやげを買う事もなく空港に戻る。
チェック・インする前にカフェで小一時間過ごすことに。
持っていたセカンドバッグをK君にあずけて、トイレに行った。
戻ってくると、そのバッグがない。
あれ、僕のバッグは?
本を読んでいたK君が顔をあげると、目の前にあったはずの僕のセカンドバッグがない。
あれ?おかしいなー。
テーブルや椅子の下など、くまなく探す。
ない!
パスポート。財布。航空チケット。たばこ。
今着ている服以外すべてのものが入ったバッグがない!
K君曰く、
本を読んでいたら、肩を叩かれふりむくと、お金が落ちていると男にいわれた。
そこに何バーツかの紙幣が落ちていて、礼を言った。
........それだ。
きっとそれですよ。
その間にもう一人の共犯者が、僕のバッグを「ごめんなさいよ」したな。
きっとそうだ。
でもいまさらごちゃごちゃ言っててもしょうがない。

すぐに空港警察に行った。
あまり英語が通じない。
何とか説明したけど、半分ぐらいしか伝わってないみたい。
そうこうしているうちに、フライトの時間も近づいてくる。
別ルートで、フランスに向かっている他の二人と向うで落ち合うことになっている。

しかし何しろ、航空チケットもパスポートもない僕はここからどこにも行けないのだ。
K君は、僕に一万円を渡した。
その時は、なぜかそれで何とかなるような気がした。
どう考えても、それじゃどうにもならない事に気がつくのはそれから数時間してからの事。
とにかく、彼はフランスに向けて飛び立った。
一人になった僕は、それから一週間以上バンコックの街を、文無し状態で彷徨うことになる。
その話はまた....

つづく。