天才、山口和与 | 吉澤はじめ MY INNER ILLUSIONS

天才、山口和与

宮野裕司さんのアルトサックス、山口和与さんのピアノ、山口雄三さんのベース。
この3人によるアルバム「metonymy」を初めて聴いたのは2年ほど前かな。

緩やかで重くて、シンプルで深く、静かなのにとても大きなうねりを感じる。
とにかく、口ではうまく言えないけど衝撃を覚えた。
不思議な音楽。
あっという間に引き込まれた。

それからしばらくたって、同じメンバーによる「Cmoll」というアルバムを聴いた。
実はこの二つのアルバムは同じ日に録音された。
要するに一日で二枚分のアルバムを録音したらしい。
すべてオリジナル曲で山口和与さんによる作曲。

和与さんは本来はベーシスト。
20年ほど前にぼくが神経症を患ったことがあって、まったくピアノが弾けなくなった時に、家で練習しようよ、と声をかけてくれた。
何度か仕事で共演したこともあって、不思議な雰囲気を漂わせていた。
名前は、かずよ、と読むけれど、ぼくより10以上年上の男性で、度が厚めのメガネをかけている。
メガネの奥の優しそうな目は、同時に時折とても意志の強さを感じるきりっとした目に変わることがある。
繊細さと力強さを合わせもつベーシスト。

そんな彼の書く曲は、どれもが絶妙な点描画のようだ。
唯一無比の宮野さんのサックス。
メロディはまるで、宮野さんの為に生まれたかのような優しさと痛みに溢れている。
本来ベーシストの和与さんが信頼をおく山口雄三さんのあたたかいベース。
和与さんの光と影がゆらめいているようなピアノ。

この3人のアーティストのライブを聴きたかった。
数ヶ月前、国立のFUKUSUKEでライブが実現することを知った時は、とにかくただそれを楽しみにするファンの一人に過ぎなかった。
けれど、ぼくがゲストで加わることになって、話はがらりと変わった。
自分がこの3人の世界に交われるのだろうか?
不安だらけだった。

自宅でリハーサルをやった。
呆然とするほど楽しかった。
本番が楽しみだった。

そしてきのう。


ステージは前半3曲のスタンダードを僕抜きで演奏し、後半は4曲のオリジナル曲を僕が加わって演奏する、という構成。これを2ステージやった。
FUKUSUKEはじまって以来の超大入りで、40人を超えるお客さんが息を殺すようにして聴き入ってくれた。

和与さんは前半ピアノを弾き、僕がピアノを弾く後半はドラムを叩いた。
とにかく音楽の才能の固まりのような人。
左手主導でメロディを弾くところを見て、あ、ベーシストだったんだ(笑)と思い出す。
ドラムもうまい。センスがいいんだ。

和与さんの事ばっかり言ってるけど、宮野さんのサックスは国宝もの!
宮野さんの人間そのものが乗り移ったかのような真っすぐな音は、しかしただ真っすぐなだけでなく微妙で複雑な反射を繰り返して空間に広がってゆく。
雄三さんのベースもあったかい音だった。実は、彼には10代の後半から5年ぐらいずっと一緒のバンドでお世話になったことがある。久しぶりの共演で、こんなにいい時間を過ごせてひたすら嬉しかった。

お客さんのあたたかい雰囲気に包まれて、まるで極上の温泉につかっているかのような音楽体験をした。

天才、山口和与に感謝!

.......以前書いた関連記事はこちら→三多摩のミュージシャン