■伊勢神宮の神饌


神へのお供え物を神饌(しんせん)といいますが、現在、神社でお供えされる「神饌」のほとんどは「生饌」(なません)です。


それに対して、調理して供える神饌を「熟饌」(じゅくせん)といい、熟饌の調理には火打ち石や火きり具などで起こした神聖な炎(忌火=いみび)を使います。


はじかみ神主のぶろぐ


伊勢の神宮では、神事で使用するすべての火は「忌火(いみび)」と呼ばれる清浄な火を使用しています。「忌火」は木と木を擦(す)りあわせる「舞錐式発火法(まいきりしきはっかほう)」により、火をきりだす「御火鑚具(みひきりぐ)」を使用しています。


これは、静岡県の登呂遺跡から発掘されたものと同じ形式で、ヒノキの板にヤマビワ製の心棒を摩擦して発火させるものです。忌火は、権祢宜(ごんねぎ)の職の者が、前夜から参籠斎戒(さんろうさいかい)してきりだします。


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伊勢神宮には、内宮(ないくう)外宮(げくう)ともに、神様の台所である忌火屋殿(いみびやでん)があります。


切妻造の二重板葺の内宮の忌火屋殿です。この建物では、神様にお供えする神饌が調理されます。上記の御火鑽具(みひきりぐ)を用いて清浄な火をきり出し、この火を使ってお供えものを調理します。この忌火屋殿の前庭は祓所(はらえど)とよばれ、諸祭典の神饌と奉仕の神職を、祭典前に祓い清めます。


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外宮の忌火屋殿です。


外宮のご祭神が、御饌都神(みけつかみ=食物の神)の豊受大御神(とようけおおみかみ)であることから、外宮のみにある御饌殿(みけどの)では、毎日朝夕の2度、天照大御神(あまてらすおおみかみ)をはじめ、豊受大御神、各相殿神(あいどのかみ)、各別宮の神々に大御饌(おおみけ)をたてまつります。


このお祭りを「日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうのおおみけさい)」といい、禰宜(ねぎ)1名、権禰宜(ごんねぎ)1名、宮掌(くじょう)1名、出仕(しゅっし)2名により奉仕されます。御火鑚具(みひきりぐ)を使って清浄な火(忌火)を鑚(き)り、神々にお供えする神饌(しんせん)を調理します。


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伊勢神宮の日別朝夕大御饌祭は、1500年もの昔から、1年365日、雨の日も風の日も欠かさずに、朝夕2度、神饌(みけ)をお供えするお祭りがなされています。


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外宮(豊受大神宮)にある御饌殿(みけどの・みけでん)です。御饌殿は神様の食堂です。外宮にあるこの食堂に、伊勢神宮の神々が集われ、朝・夕2回食事をされるのです。


日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうおおみけさい)は常典御饌(じょうてんみけ)とも呼ばれ、朝御饌(あさみけ)は午前8時(冬季は9時)、夕御饌(ゆうみけ)は午後4時(冬季は3時)におこなわれます。


平安時代まで日本人の食事がほとんど1日2食であった名残と思われます。

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神様のお食事です。折櫃(おりひつ)というヒノキの櫃に入っております。神様の弁当箱ですね。


常典御饌(じょうてんみけ)品目は、御飯(おんいい)、御塩(みしお)、御水(おみず)、魚(鰹節と鯛、但し、夏は干し魚やスルメ)、海草(昆布、荒布、ひじき・・・等)野菜、果物、清酒です。

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図解で説明しますね。


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伊勢神宮の別宮・倭姫宮(やまとひめのみや)の新嘗祭(にいなめさい)の神饌です。 


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由貴大御饌祭(ゆきのおおみけさい)とは、1年に3度の大祭りである10月17日の神嘗祭(かんまめさい)と、6月・12月の月次祭(つきなみさい)を指します。


お供えする神饌約30品目は御飯、お餅、伊勢海老、サザエ、アユ、鰹節、干し鮫(サメのタレ)、海参(イリコ)、野鳥、水鳥、昆布、紫海苔大根、柿、梨などね海川山野(うみかわやまぬ)の30種の品々。そして白酒(しろき)、黒酒(くろき)、醴酒(れいしゅ)、清酒の4種の神酒もお供えされます。


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■自給自足の伊勢神宮


伊勢の神宮では、お供えされる食物はもちろん、食器類や神様が着られる着物まで、衣食住すべてを自給しています。


それでは、伊勢神宮の自給自足について説明したいと思います。


●神宮神田(じんぐうしんでん)


伊勢市楠部町 作付面積約30,000平方メートル

神宮神田の起源は、皇女・倭姫命(やまとひめのみこと)がお定めになったと伝えられていて、大御刀代(おおみとしろ)または、御常供田(みじょうくでん)といわれていました。


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毎年、地元青年男女の奉仕のもと、神宮にて1年間に行われるお祭りの御料の粳米(うるちまい)と糯米(じゅまい=もち米)が、五十鈴川の水を使って清浄に育てられています。その年にとれた新米は、神嘗祭(かんなめさい)に大御神(おおみかみ)に奉(たてまつ)られます。


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●神宮御園(じんぐうみその)


度会郡二見町溝口 19,751平方メートル

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神宮の諸祭典にお供えする、季節に応じた野菜・果物を栽培しています。その品目は多種にわたり、数量も多くあります。


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●御塩殿(みしおでん)


三重県度会郡(わたらいぐん)二見町にある、神宮所管社の御塩殿神社(みしおでんじんじゃ)です。


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御塩焼所(みしおやきしょ)


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御塩浜(みしおはま)度会郡二見町西6,609平方メートル

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御塩は、まず五十鈴川の下流の御塩浜(みしおはま)で、毎年7月の土用(どよう)に濃い塩水をとり、その1km北東の御塩汲入(くみいれ)所に運び、その塩水をすぐ東にある御塩焼所にて、鉄の平釜で焚き上げて荒塩にします。さらに、これを御塩殿で三角形の土器につめて焼き固め堅塩(かたしお)に仕上げます。この御塩焼固(みしおやきがため)の作業は神職が出向し、身を浄めて奉仕します。


●機殿神社(はたどのじんじゃ)


神服織機殿(かんはとりはたどの)神社・八尋殿(やひろでん) 松阪市大垣内(おおがいと)町

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この神社は、5月と10月の14日に伊勢神宮で行われる「神御衣祭(かんみそさい)」にお供えする絹布(和妙/にぎたえ)を手織りしている所管社です。

神麻続機殿(かんおみはたどの)神社・八尋殿 松阪市井口中町


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神麻続機殿神社は神御衣祭にお供えする麻布(荒妙/あらたえ)を手織りしている所管社です。こちらも神服織機殿神社と同様の造りで、本殿の隣に茅葺きの「八尋殿」が建ち、トン、トン、カタッ、トン、トン、カタッと機織りの音が響きます。


こちらでは、白衣・白袴姿の男性がの麻布(荒妙)を織っています。両神社でのこの奉職作業は、5月と10月の1日に奉職始祭が行われ、神御衣祭の前日まで行われます。


御料干鯛調製所


愛知県知多郡南知多町大字篠島(しのじま)字中手島 11,242平方メートル

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干鯛(ひだい)とは、生鯛の内臓を取り除き、塩水につけたのち、西風の強い日に天日で乾燥させたもので、古くからの伝統と由緒のままに篠島の中手島で調製されています。この中手島には、調製所のほか、乾燥場、貯蔵庫などの施設があります。


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●熨斗鮑(のしあわび)


志摩半島の国崎(くざき)はアワビの採れる所として有名で、毎年伊勢の神宮へ2000個のアワビを奉納しています。神宮に納める熨斗鮑は、古老たちがリンゴの皮をむくようにして熨斗た後、天日干しして仕上げます。


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その昔、垂仁天皇(すじんてんのう)26年、倭姫命(やまとひめのみこと)が神宮の御贄(みにえ)の地を探し国崎へ立ち寄ったところ、地元の海士が採っていた鮑が美味しく「熨斗あわび」として献上する習慣になりました。

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熨斗紙、熨斗袋と申しますが、これが本当の熨斗なのです。


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この鳥羽市国崎町に海士海女神社(あまかづきめじんじゃ)があり、7月1日の例大祭には、「御漕神事(みかづきしんじ)がおこなわれ、伊勢神宮より差遣された舞人や舞姫が、神前で舞楽を奉納します。


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この日35人の海女(あま)が太鼓の合図で一斉に海に入り、神様にお供えする鮑(あわび)を採ります。


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拝殿には、国崎漁協組合が奉納した巨大な鮑の殻が飾られています。


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●土器調製所 


三重県多気郡明和町蓑村


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諸祭典に使用される素焼きの土器を調製しています。調製所のほか、土器焼竃(かま)、土器乾燥所、潔斎所などの施設があります。


自給自足と書くのは簡単ですが、現代人の私たちには想像もつかないような知恵と労力が必要なのです。 古くに確立された文化を今日まで継続していくことは、大変なことですね。


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