東京の旅の思い出でもう一つ重要なことがあります。それは、普段は絶対にお会いすることが出来ない方との、「会話」であります。
私より少し若く、もちろん現役のバリバリで毎日きわめて多忙に生活されていらっしゃる方が、そのご家族に「8020」について話されている、それを傍受しました。
通常は、80歳になっても20本の自前の歯を維持し、ゆたかに食生活を送るための健康管理をさす言葉、と思われているが、いろいろな考え方がある、ということでありました。ひどく興味がわき、聞き耳を立てました。ご家族は、そうは言ってもお父さん、すでに20本も歯がない人はどうしたらいいの、と質問されたのです。
いろんな考え方がある、というのがその返答でした。「80歳になっても、毎日20人の人に会う、それもりっぱな老後の健康管理だ」。
うう~む、そりゃ難しいぞ、と、聞きながら私は思いました。
すでに私は教師職をリタイアしている。現職であった頃は、出勤するということは自動的に100人以上の人と会う、対話するということを意味していた。しかし、帰国してからは……。
朝、奥さんと一緒に目覚める。おはようという。1人。
散歩に出かける。午前7時の営業開始の準備を、ガソリンスタンドの人がしている。挨拶する。これで2人。
GSの敷地内にローソンがある。2人の店員さんがいる。コーヒーを淹れてもらい日経新聞を買う。これで4人。
公園のベンチに腰を下ろし、配偶者とコーヒーをのみながら新聞に目を通す。公園の管理者の方に挨拶。5人目。
札幌の某事業所に履歴書を送る。簡易書留にするから、窓口の人との対話がある。ゴルフ焼けがとても素敵な女性と、「いつ中国へ戻るんですか?」「いえもう戻りません」という会話をする。やっと6人目。
生協で買い物をする。レジ係さんとのごくシンプルな対話もカウントするとして、それでもまだ7人目。
うう~む、80歳で20人の人と会話するというのは難しそうだ。65歳で、正午で、まだ7人目なのだから。
午後、佐川急便さんが来て、ボウフラは大喜びする。「よく来てくださいました。今日になってまだ8人の人としか会わないんですよ。なにしろですね、80歳になっても20人の人に毎日会うというのが、健康維持の秘訣なんですよ」。すると相手は「えっ、もう80ですか、若く見えます、70代の真ん中に見えます」。失礼なのか礼儀正しいのかよくわからない会話をして、佐川急便さんが去ってゆく。
夕方の散歩。ボウフラの家は丘の中腹にある。朝は丘を下る。夕方は丘を登る。すると畑があり、2人の女性が馬鈴薯の収穫をしている。配偶者が立ち話をする。ボウフラは何しろ8020の提唱者なので、なんとか配偶者の話に茶々を入れて自分も参加しようとする。これで10人。
げっ、日が暮れちゃう。あと10人と会わないといけないのに。
ここで、ボウフラは東京での(正確には軽井沢の某ホテルだけど)くだんの多忙な人の言葉を思い出す。
「20人の人と会うことの出来ない日もあるだろう、メールでもかまわないんだよ」
すげっ。
ボウフラはせっせと10人の人にメールを書く。★先生お元気ですか、ボクも元気です。家の前の月見草が綺麗です。それではさようなら」などというメールを10通書くんは難しくない。
ふう。
8020運動、完遂。
80歳になっても20人の人に会う、というのはきっと難しいことだろう。しかしすばらしい健康管理法だ。それと、ボウフラにはアマチュア無線という強い味方がある。しかも免許は1級、出力100Wだ(申請すれば1KWにできるが金がかかるので……)。電波は地球の裏側まで届く。CQ、CQと電波を出せば、まぁアマチュア無線だけで20人の人と対話は可能だ。
やっぱ……仕事するのがいいのでしょうね。明日は職安へ行こう!