厚生労働省は、12月26日、平成24年度の「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援などに関する法律に基づく対応状況」についての調査結果を発表した。

調査は、高齢者虐待について明らかにするため、全国の1,742市町村(特別区を含む)と47都道府県を対象に行った。それによると、高齢者虐待と認められた件数は、養介護施設従事者(介護施設・介護事業所の職員)などによるものが155件で、前年度より4件(2.6%)増加した。養護者(高齢者の世話をしている家族や親族)によるものは15,202件で、前年度より1,397件(8.4%)減少した。また、市町村等への相談・通報件数は、養介護施設従事者などによるものが736件で、前年度より49件(7.1%)増加したのに対し、養護者によるものは23,843件で、前年度より1,793件(7.0%)減少した。

調査では、養介護施設従事者・養護者別に、高齢者虐待の状況や要因、程度などについてもまとめている。主な内容は以下の通り。

【養介護施設従事者などによる高齢者虐待】


■虐待の内容は、「身体的虐待」が6割近く


相談・通報者862人のうち、「当該施設職員」が258人(29.9%)で最も多く、次いで「家族・親族」が177人(20.5%)だった。相談・通報の受理から事実確認開始までの期間の中央値は5日で、相談・通報の受理から虐待確認までの期間の中央値は10日だった。

虐待の発生要因は、「教育・知識・介護技術などに関する問題」が78件(55.3%)で最も多く、次いで「職員のストレスや感情コントロールの問題」42件(29.8%)、「虐待を行った職員の性格や資質の問題」40件(28.4%)だった。虐待の事実が認められた155件の施設・事業所のうち、39件(25.2%)が過去何らかの指導等を受けていた。指導の多くはサービス提供についての指導だったが、過去にも虐待事例が発生していたケースが3件あった。

虐待の事実が認められた施設・事業所の種別は、「特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)」が46件(29.7%)で最も多く、次いで「認知症対応型共同生活介護(グループホーム)」41件(26.5%)、「介護老人保健施設」14件(9.0%)だった。

被虐待高齢者の総数263人の虐待の種別では、「身体的虐待」が149人(56.7%)で最も多く、次いで「心理的虐待」115人(43.7%)、「介護等放棄」32人(12.2%)だった。虐待を受けた高齢者のうち「身体拘束あり」は48人(18.3%)だった。虐待の程度の深刻度の割合では、5段階評価で最も軽い「1-生命・身体・生活への影響や本人意思の無視など」が167人(63.5%)で、最も重い「5-生命・身体・生活に関する重大な危険」は14人(5.3%)。 被虐待高齢者の死亡事例はなかった。

■「経済的虐待」は居宅系の事業所で発生


被虐待高齢者総数263人のうち、女性が187人(71.1%)を占め、年齢は80歳代が130人(49.5%)だった。要介護度は3以上が205人(78.0%)で、「認知症高齢者の日常生活自立度2以上」の人は195人(74.1%)だった。施設種別ごとの虐待種別は、「認知症対応型共同生活介護(グループホーム)・小規模多機能型居宅介護等」では「身体的虐待」、「心理的虐待」が含まれるケースが他の施設よりも多い。「その他入所系」では「心理的虐待」が含まれるケースは他の施設よりも少ないが、「介護等放棄」、「性的虐待」が含まれるケースの割合が他の施設種別よりも高い。「経済的虐待」については大半が居宅系の事業所で生じている。

■虐待者では、男性と30歳未満の割合が高い


虐待者の総数221人のうち40歳未満が88人(39.9%)、職種は「介護職員」が176人(79.6%)だった。虐待者の性別は、不明を除いて「男性」89人(41.0%)、「女性」128人(59.0%)。虐待者の男女比は、介護従事者全体(介護労働実態調査)に占める男性の割合が21.4%なのと比べ、同調査での虐待者では男性の割合が高い。虐待者の男女別年齢では、介護従事者全体(介護労働実態調査)に占める「30歳未満」の男性の割合が22.9%、女性の割合が10.3%なのに比べ、虐待者に占める「30歳未満」の男性の割合が34.2%、女性の割合が19.0%であり、同調査での虐待者の方が男性、女性とも「30歳未満」の割合が高い。

【養護者による高齢者虐待】


■相談・通報の3割強がケアマネから


相談・通報者26,562人のうち、「介護支援専門員」が8,507人(32.0%)で最も多く、次いで「家族・親族」3,158人(11.9%)、「警察」2,812人(10.6%)だった。相談・通報の受理から事実確認開始までの期間の中央値は0日(即日)で、相談・通報の受理から虐待確認までの期間の中央値は1日(翌日)だった。
相談・通報24,725件(平成23年度中に相談・通報があり、平成24年度に事実確認したものを含む)のうち、市町村の事実確認24,069件(97.3%)は、「訪問調査」16,181件(65.4%)、「関係者からの情報収集」7,700件(31.1%)、「立入調査」188件(0.8%)により実施された。

虐待の発生要因は、「虐待者の障害・疾病」が1,152件(23.0%)で最も多く、次いで「虐待者の介護疲れ・介護ストレス」1,140件(22.7%)、「家庭における経済的困窮(経済的問題)」826件(16.5%)だった。養護者による被虐待高齢者の総数15,627人のうち、虐待の種別では、「身体的虐待」が10,150人(5.0%)で最も多く、次いで「心理的虐待」6,319人(40.4%)、「経済的虐待」3,672人(23.5%)、「介護等放棄」3,663人(23.4%)だった。 虐待の程度の深刻度の割合は、5段階評価で「3-生命・身体・生活に著しい影響」が5,515人(35.3%)と最も多く、次いで「1-生命・身体・生活への影響や本人意思の無視等」が4,822人(30.9%)で、一方、最も重い「5-生命・身体・生活に関する重大な危険」は1,551人(9.9%)を占めた。

■要介護度が重く、認知症があると虐待が深刻に


被虐待高齢者総数15,627人のうち、女性が12,127人(77.6%)、年齢は80歳代が6,608人(42.3%)だった。要介護認定の状況は認定済みが10,624人(68.0%)で、要介護度別に見ると、要介護2が2,280人(21.5%)、要介護1が2,250人(21.2%)の順だった。また、要介護認定者における認知症日常生活自立度2以上の人は7,393人(69.6%)であり、被虐待高齢者総数15,627人に対しては7,393人(47.3%)を占めた。

要介護度と虐待種別との関係では、「身体的虐待」と「心理的虐待」では、要介護度が重い人の割合が低く、「介護等放棄」ではその逆になる傾向がみられた。要介護度と虐待の程度の深刻度の関係では、要介護度が重い場合に深刻度が高い。
認知症の程度と虐待種別の関係をみると、認知症がある場合に「介護等放棄」を受ける割合が高くなる一方で「心理的虐待」は低くなり、自立度3以上でこの傾向は強い。虐待の深刻度との関係では、認知症がある場合に虐待の深刻度が重くなりやすく、自立度3以上でこの傾向は強い。

■「虐待者と高齢者のみ同居」世帯で虐待が発生しやすい傾向


虐待者との同居の有無では、「虐待者とのみ同居」が7,746人(49.6%)で最も多く、「虐待者及び他家族と同居」の5,759人(36.9%)を含めると13,505人(86.5%)が同居している事例だった。家族形態は「未婚の子と同居」が4,889人(31.3%)で最も多く、次いで「夫婦のみ世帯」3,022人(19.3%)、「子夫婦と同居」2,818人(18.0%)の順だった。

被虐待高齢者からみた虐待者の続柄は、「息子」が7,071人(41.6%)で最も多く、次いで「夫」3,114人(18.3%)、「娘」2,732人(16.1%)だった。被虐待高齢者からみた虐待者の続柄と同別居の関係をみると、被虐待高齢者は、虐待者である「夫」の2,257人(75.0%)、「息子」の3,133人(50.3%)、「娘」の928人(40.6%)とのみ同居で、「孫」も130人(24.2%)とのみ同居だった。

虐待者の年齢は「50-59歳」が3,859人(22.7%)、「70歳以上」が3,774人(22.2%)だった。続柄との関係では、「50-59歳」では「息子」が2,407人(62.4%)、「娘」が851人(22.1%)で親子関係が多く、「70歳以上」では「夫」が2,614人(69.3%)、「妻」が580人(15.4%)で夫婦間が多かった。

■ケアプランの見直しも対応策のひとつ


虐待事例への市町村の対応は、「被虐待高齢者の保護として虐待者からの分離」が6,794人(34.9%)の事例で行われた。そのうち、分離を行った事例では「介護保険サービスの利用」が2,600人(38.3%)で最も多く、次いで「医療機関への一時入院」が1,212人(17.8%)だった。分離していない事例では、「養護者に対する助言指導」が5,352件(49.9%)で最も多く、次いで「ケアプランの見直し」3,014件(28.1%)だった。

権利擁護に関しては、成年後見制度の「利用開始済み」が620人、「手続き中」が 387人で、これらを合わせた1,007人のうち市町村長申立は531人(52.7%)だった。市町村で把握している平成24年度の虐待などによる死亡事例は、「養護者による殺人」10件10人、「介護等放棄(ネグレクト)による致死」9件10人、「虐待(ネグレクトを除く)による致死」4件4人、「心中」1件1人、その他2件2人で合わせて26件27人だった。(ケアマネジメントオンライン)