10月30日、社会保障審議会介護保険部会 (山崎泰彦・部会長 以下、部会)の第51回 が開かれた。

介護保険制度改定をめぐる論点はすでに出されているが(10月8日配信「2015年改正の見直し案が明らかに――介護保険制度改定の論点(6)」 参照)、今回と次回第52回 (11月14日開催予定)は「更に議論が必要な項目」について2巡目の議論が行なわれる。

当日は、事務局の厚生労働省から、①要支援認定者を地域支援事業への移行、②特別養護老人ホーム利用者を要介護3以上に限定、③その他がテーマとして出された。

なお、10月15日、政府は臨時国会(第185回国会)にプログラム法案 (持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律案)を提出している。「法案の主な概要」 では、介護保険制度について①地域包括ケアの推進、②予防給付の見直し、③低所得者の介護保険料の軽減等が出されている。同法案は介護保険法を規定するため、今国会で成立すれば、来年の通常国会で介護保険法改正案の議論を待つことなく、「予防給付の見直し」すなわち要支援認定者の地域支援事業への移行が確定することになる。

■要支援者への「財源」は頭打ち
部会では厚生労働省老健局の朝川知昭・振興課長から「予防給付の見直しと地域支援事業の充実について」(資料1) の説明があった。

すでに、第47回 (9月4日)の「論点」で、要支援者(要支援1・2の認定者)を介護予防サービス(予防給付)からはずし、地域支援事業(市区町村事業)に「新しい総合事業(要支援事業・新しい介護予防事業)」を設け、移行することが提案され、「移行後の事業も、介護保険制度内でのサービス提供であり、財源構成は変わらない」と説明があった。

しかし、今回示された「予防給付の地域支援事業への移行(案)」の「事業費の上限の設定の見直しについて(イメージ)」では「給付見込額の伸び(約5~6%程度)から後期高齢者の人数の伸び(約3~4%)程度に効率化」するとある。現行の介護の必要度に応じた伸び率を、少なくとも2%は抑制することになる。

折しも同日、田村憲久・厚生労働大臣は衆議院厚生労働委員会で「現行ペースで仮に年間5.5%の伸びであれば、2025年度は8,676億円。後期高齢者の人数の伸びとほぼ同じ年間3.5%の伸びであれば2025年度は7,029億円、つまり、1,647億円抑制できる」と伸び率の抑制による“効率化”を答弁した。

12年後に1,647億円を節約するために、要支援者はサービスを利用する権利(受給権)を失い、市区町村が実施する「要支援事業」の対象となる。

■2017年度で介護予防サービスは消滅
また、要支援者の介護予防サービスから「要支援事業」への移行は、「地域の実情に合わせて、一定程度時間をかけて行う」という説明があった。

「予防給付から地域支援事業への移行スケジュールについて(イメージ)」では、2015(平成27)年~2016(平成28)年度中に市区町村ごとに「要支援者に対する地域支援事業」を開始するチャートが示されている。要支援認定の有効期間は最長12ヵ月なので、2017(平成29)年中に全ての市区町村が移行できるので、2018(平成30)年3月末には「全国で予防給付が終了」するという計算だ。

現在、介護保険制度は広域連合を含む市区町村の1579保険者が運営しているが、「新しい総合事業」で介護予防サービスのメニューすべてを「要支援事業」に移行し、提供事業者には既存の指定事業者を含むNPOやボランティアに委託し、料金や利用料も含めて「市町村の裁量」が拡大されるという。

プログラム法案の成立に伴う介護保険法の改正は早くても来春と予想されるので、保険者である市区町村は、2015(平成27)年からの第6期介護保険事業計画に「新しい総合事業」をあわただしく盛り込むことになる。市区町村が移行の事務作業に費やす経費などは推計されていないが、厚生労働省がガイドラインを定め「市町村に対する支援策を実施」するという。

■介護予防事業は「筋トレ」を反省
2006(平成18)年から介護保険制度に導入された介護予防事業は、介護認定非該当や元気高齢者が対象の地域支援事業のメニューで、元気高齢者向けの一次予防施策(旧・一般高齢者施策)、認定未満の高齢者向けの二次予防施策(旧・特定高齢者施策)がある。

特に、二次予防施策対象者向けの「運動器の機能向上」のため、市区町村が競って筋トレマシーンを購入したのはそれほど古い話ではない。

だが、二次予防事業は約150万人(高齢者人口の5%)の参加を目標としながら、実施する市区町村は約6割、参加者は23万人で、目標達成率15%と極めて低調な事業だ(厚生労働省老健局「2011年度介護予防事業(地域支援事業)の実施状況に関する調査結果(概要)」 より)。介護予防事業には年間430億円が投入され第47回部会資料1 (「2011年度の介護予防事業の実績」より)、二次予防事業参加者ひとり当たり約6万円が費やされているが、追跡調査がないため“介護予防事業の効果”は明らかではない(表1参照)。

朝川課長は創設以来8年間の介護予防事業は「機能回復訓練に偏りがちであった」として、「高齢者本人を取り巻く環境も含めたバランスの取れたアプローチ」をするため、「(新)地域リハビリテーション活動支援事業」を創設することを示した。具体的には、「高齢者を生活支援サービスの担い手と捉える」として要支援者向けの「要支援事業」を担当させることや、「住民自身が運営する体操の集いなどの活動を地域に展開」することなどに「市町村が主体的に取り組む」としている。

なお、「新しい総合事業」では、「要支援事業」と介護予防事業が統合される図が示されている。2011(平成23)年度段階で予防給付(約4,100億円)と介護予防事業(約430億円)の合計約4,500億円が市区町村事業の財源となる計算だが、その使途が「市区町村の裁量」に任されるのかどうかは、判然としない。

■特養利用者限定案は「特例」だらけの修正
高橋謙司・高齢者支援課長からは「特別養護老人ホームの重点化について」 (資料2) の説明があった。

すでに、第48回 (9月18日)で、特別養護老人ホーム(以下、特養)の利用者を「要介護3以上に限定すべき」という「論点」が出されている。特養待機者約42万人のなかで「在宅で、かつ要介護4及び5の待機者」が6.7万人になるため、特養利用者のうち「軽度」(要介護1・2)約6万人を除外するという説明が行なわれ、現在、特養を利用している「軽度」(要介護1・2)の者、「中重度」(要介護3~5)の利用者で「軽度」に改善した者は引き続き特養を利用することを「特例」として認めるとした。
今回は、さらに以下の「特例」を認めることが提案された。

1. 「軽度」(要介護1・2)でやむを得ない事情がある者は、市区町村や施設の判断で特例的に特養の利用を認める。
2. 「中重度」(要介護3~5)で特養を新たに利用する者が入所後、要介護1・2に改善した場合、やむを得ない事情がある者は、引き続き利用を認める。

現行でも特養は待機者が多いため、市区町村や施設が入所判定委員会を作り、介護放棄や虐待など「やむを得ない事情」がある高齢者を優先している。
また、施設サービス利用者は年々重度化しており、特養の平均要介護度は3.89、要介護3以上の利用者が約9割で、法改正するまでもなく「中重度」に制限されている。

今回の「特例」の追加は、介護保険法改正で要介護3以上に限定しても利用条件は現行とほぼ変わらないことになる。委員からは実態として現状維持になる「特例」を評価する発言もあったが、仕組みが複雑になるだけでなく、「限界になったら特養へ」とすがる思いで在宅介護を続ける家族介護者をも失望させる。

高橋課長は「特例」の追加とともに、「要介護高齢者の住まいに確保に向けた取組を進め、軽度の入所者に対する在宅復帰支援策の充実をはかる」、「特養を中心に重度要介護者が在宅生活を継続できる取組を促進する」と提案した。だが、高齢化の進行に比例して高まる特養をはじめとする施設への需要に「地域包括ケアシステム」 は対応できるのだろうか。

■地域包括支援センターの「機能強化」
朝川課長からは「その他」(資料3) として、①地域包括支援センターの機能強化に向けた方向性について説明があった。

地域包括支援センターは全国4328ヵ所(1580保険者)に設置され、ブランチ2391ヵ所(392保険者)、サブセンター353ヵ所(100保険者)を含めると合計7072ヵ所になる。設置は市区町村直営型が約3割、委託型が約7割で、委託型が増加している。委託型は社会福祉法人が約4割を占める(株式会社三菱総合研究所「地域包括支援センターにおける業務実態に関する調査研究事業報告書」 より)。

地域包括支援センターの「市町村機能の一部として複合的に機能強化」するため、業務量に応じた人員配置、業務内容の見直し(直営等基幹センター、機能強化型センターなど役割分担・連携の強化、市区町村による委託型センターの業務内容の明確化)、効果的な運営の継続(市区町村運営協議会等による評価・点検)の3点が示された。

■居宅介護支援事業所は5年後、市区町村指定に
「その他」の②居宅介護支援事業所の指定権限の市町村への委譲では、第6期(2015~2017年度)を準備期間として、2018(平成30)年4月に施行し、2018年度中は経過措置を設けることが説明された。
居宅介護支援事業所は現在、全国3万6,277事業所(政府統計の総合窓口「介護給付費実態調査月報2013年8月分」 より)になる。

■小規模デイサービスは3年後、地域密着型サービスに
「その他」の③小規模型デイサービスの地域密着型サービスへの移行は、2016(平成28)年4月に施行、2016年度中は経過措置を設けるという。
デイサービス(通所介護)は月平均延べ利用者数によって、小規模型(利用者300人以内)、通常規模型(300人超)、大規模型(750人超)と分類されている。

現在、小規模型1万9,469事業所(54%)、通常規模型1万4,953事業所(41%)、大規模型1,892事業所(5%)がサービスを提供している(政府統計の総合窓口「介護給付費実態調査月報2013年8月分」より)。
「移行イメージ(案)」では、①小規模型デイサービスを市区町村が指定する地域密着型サービスに移行するほか、②大規模型・通常規模型のサテライト事業所に移行、③小規模多機能型居宅介護のサテライト型事業所という3案が示されている。

都道府県から市区町村に指定権限を移すなどの見直しにより、「地域との連携や運営の透明性を確保」、「運営の安定性の確保、サービスの質の向上」が実現できるという。
デイサービスは利用者167万人(要支援44万人、要介護123万人)になる最大の在宅サービスだが、サービス提供事業者の過半数を占める小規模型の地域密着型サービス(市区町村指定)への移行が利用者にどのような影響を与えるのかは不明だ。

ちなみに、10月22日、会計検査院は厚生労働大臣宛てに「地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金等により整備した地域密着型施設の利用状況」 を出し、地域密着型サービスとして市区町村が指定する認知症デイサービス(利用者6万人)と小規模多機能型居宅介護(利用者8万)の整備について、「施設が全く利用されていなかった事態」、「施設の利用が低調となっていた事態」を指摘し、「市町村の需要把握が不十分」であること、「見込量を利用に結びつける方策が未検討」であることが原因としている。(ケアマネジメントオンライン)