9月18日、社会保障審議会介護保険部会 (山崎泰彦・部会長 以下、部会)の第48回 が開かれ、事務局の厚生労働省老健局から「在宅サービスについて」(8項目)、「施設サービスについて」(3項目)に分けて、「現状と課題」と「論点」の資料説明があり、委員からの自由発言が行なわれた(意見書を出した委員は6人)。
今回は「特養入所、厳格化に異論も 『要介護3』以上限定案を提示 」(9月18日、共同通信)など注目を集めた「施設サービスについて」について報告する。
なお、部会は次回以降、9月25日の第49回 は「低所得者の第1号保険料の軽減」と「一定以上所得がある者の利用者負担」、「補足給付」について、10月2日の第50回都市部の高齢化対策に関する検討会 (大森彌・座長)の「報告書」にもとづく「論点」が出される予定だ。

■特別養護老人ホームは「中重度介護者」に限定
「施設サービスについて」(資料2 )は、「特別養護老人ホーム」、「高齢者向け住まい」、「老人保健施設・介護療養型医療施設」の3項目に分かれ、サービス付き高齢者向け住宅が「施設サービス」に分類されている。

高橋謙司・高齢者支援課長は、特別養護老人ホーム(以下、特養)の利用者を「要介護3以上に限定すべき」という法律改正が必要な「論点」を出した。

すでに「介護保険制度改革による『しっかり給付』の内容は? 」(8月9日配信)で報告したが、社会保障制度改革国民会議報告書 が「特別養護老人ホームは中重度者に重点化を図る」と提案したことを受けての「論点」だ。

特養は「中重度の要介護者」(要介護3以上)が増える一方、「軽度の要介護者」(要介護1・2)が約12%(2011年)を占める。

高橋課長は特養待機者42万人問題があるなか、「在宅で、かつ要介護4及び5の申込者が6.7万人」になり、「一定の重度化対応が必要」と説明した。

介護保険サービスの利用者517万人のうち、特養は56万人と約1割だ。平均要介護度は3.89、要介護3以上の利用者が約9割で、制限するまでもなく“中重度化”している。勝田登志子委員(認知症の人と家族の会)は「現行でも入所基準があり重度優先であり、限定する必要はない」(勝田委員提出資料 )、枡田和平委員(全国老人福祉施設協議会)は「一律に重度要介護者のみに入所制限することは、介護保険法第2条3に定める選択の自由にそぐわない」(枡田委員提出資料 )、内田千恵子委員(日本介護福祉士会)は「要介護3以上に限定するのは基本的に反対」と反対を表明した。

小林剛委員(全国健康保険協会)は「“選択と集中”にもとづき要介護3にすべき」、岡良廣委員(日本商工会議所)は「中重度化を支持する」、布施光彦委員(健康保険組合連合会)は「給付が膨張する以上、重度者に重点化すべき」と厚生労働省案を支持した。

結城康博委員(淑徳大学)は「要介護2以上に変更すべき」(結城委員提出資料 )とした。

大西秀人委員(全国市長会)は「全国一律に実施することは困難であり、地域の実態を十分検証する必要がある」(大西委員提出資料 )とした。

また、厚生労働省は「特養の個室ユニット化を推進」しているが、自治体条例で多床室が認められているため、整備率は25.4%に留まっている。委員からは「重度者に重点化するなら、ユニット型個室の制限を撤廃すべき」(岡委員)、「新設特養は多床室も増やすべき」(結城委員)など居室の基準緩和についての意見も出され、高橋課長は「多床室の実態も把握したい」と答弁した。

なお、特養で死亡するのは「退所者の6割超」になるため、「看取りを行うことのできる体制をより一層強化していくべき」と介護報酬見直しにつながる「論点」も出された。

■「軽度の要介護者」は“高齢者ハウス”(仮称)で対応
高橋課長は「現行の軽度者の利用は保障する」とし、要介護1・2の「軽度の要介護者」が特養を利用する最大の理由は「介護者不在、介護困難、住居問題等」(全国老人福祉施設協議会調査、対象者361人中174人が該当)であり、「低所得高齢者の住まい」対策で対応できると説明した。

「高齢者向け住まいについて」では、低所得・低資産高齢者のため「低廉な家賃の住まいの場として、全国で増加傾向にある空家等の既存資源の有効活用」、「養護老人ホーム、軽費老人ホームの新たな役割や在り方について検討が必要」、「有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅の適正な運用と情報提供体制の充実」の3点が「論点」とされた。

全国の空家は約757万戸(2008年度)で、そのうち賃貸用住宅は400万戸になるという。資料では、都道府県社会福祉協議会などが基金を作り、社会福祉法人やNPOなどが事業実施主体となって、空家を活用した「高齢者ハウス(仮称)」で生活支援を提供し、医療・介護・看取りなど「必要に応じて外部サービスを提供」するという図が示されている。

齋藤秀樹委員(老人クラブ連合会)は「高齢者ハウス構想は貧困ビジネスにしないという前提が必要」と指摘し、藤原忠彦委員(全国町村会)は「特養重点化はやむを得ないが、軽度者対策とセットで考えてもらいたい」と要望した。

養護老人ホームと軽費老人ホームは老人福祉法 にもとづく「老人福祉施設」だ(有料老人ホームも含まれる)。養護老人ホームは利用者約6万人(893施設)、軽費老人ホーム(A型、B型、ケアハウスの3種類)は利用者約8万人(2001施設)になる(厚生労働省大臣官房統計情報部「2011年社会福祉施設等調査の概況 」より)。

サービス付き高齢者向け住宅は高齢者の居住の安定確保に関する法律 にもとづくバリアフリー賃貸住宅で、安否確認と生活相談の“サービス”がセットになっている。登録戸数は12万戸と急増し、入居者の平均年齢82.6歳、平均要介護度1.8と報告された。

[参考情報]
厚生労働省老健局のhttp://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/14syokan/dl/04-12.pdf2014年度概算要求では、「低所得高齢者等の住まい・生活支援の推進」に20億円が計上され、「低所得高齢者等住まい・生活支援事業」(8.7億円)と「養護老人ホーム等の環境改善事業」(11億円)が予定されている。

■再利用が多い老人保健施設
迫井正深・老人保健課長は、老人保健施設(以下、老健)について、2012年度介護報酬改定で、「在宅強化型老健」(在宅復帰率50%を超え、ベッド回転率月10%以上)のほか、在宅復帰・在宅療養支援機能加算、入所前後訪問指導加算を新設したが、「在宅復帰率・ベッド回転率が低く、平均在所日数が長期化する施設も存在」と「現状と課題」を指摘し、「在宅復帰支援機能・在宅療養支援機能を引き続き強化する」ほか、「退所したが、短期間で元の施設に戻るケースへの対応の検討」を「論点」とした。
老健は医療機関と在宅の中間施設と位置づけられ、約50万人が利用し
、平均要介護度は3.31だ(2011年度)。厚生労働省資料では「在宅強化型老健」は約5%で、4分の3以上の老健が在宅復帰率30%以下、月5%未満のベッド回転率と報告されている。また、退所した利用者のうち、自宅に帰ったのち元の老健に戻ったのは54%、一般病床に移ったのち元の老健に戻ったのは63%で、半数以上の退所者が元の老健を再利用しているのが実情だ。

また、2017年度末で廃止が予定される介護療養病床は約13万人が利用し、平均要介護度4.41だ。迫井課長からは、老人保健施設も含めて「長期療養機能、看取りやターミナルケアの機能についてどう考えるか」という「論点」が出された。

[参考情報]
介護報酬の見直しを検討する社会保障審議会介護給付費分科会 (田中滋・委員長)は9月11日、第96回 で、2012年度介護報酬改定の効果検証作業として「介護老人保健施設の在宅復帰支援に関する調査研究事業」(委託先・医療経済研究機構、松田晋哉・委員長)の2013年度実施を承認している。

9月25日の第49回部会では、「低所得者の第1号保険料の軽減」と「一定以上所得がある者の利用者負担」、「補足給付」がテーマで、社会保障制度改革国民会議報告書にある「低所得者の第1号介護保険料の負担段階を引き下げる」、「一定以上の所得のある利用者負担を引き上げる」、「施設サービスなどの食費・居住費の低所得者負担軽減策(補足給付)は、資産、遺族年金などの非課税年金、世帯分離した配偶者の所得などを勘案する」の3提案に対応するものだ。

10月2日の第50回部会では、都市部の高齢化対策に関する検討会(以下、検討会)の「報告書」が出される予定だが、すでに9月20日の第5回 検討会で、報告書案「都市部の強みを活かした地域ケアシステムの構築」 が承認されている。

特養 遠隔地に設置で国に法改正要望 杉並区、静岡県など 」(9月12日毎日新聞)という報道があるが、東京都杉並区が静岡県南伊豆町に計画している“地方移住型”特別養護老人ホーム(「広域型施設」とも呼ばれる)のほか、「75歳以降も前居住地が費用負担 高齢者の移転環境整備へ 」(9月20日共同通信)と報道された住所地特例(現行は介護保険3施設と有料老人ホームに適用)のサービス付き高齢者向け住宅への拡大といった「論点」が示される予定だ。(ケアマネジメントオンライン)