9月5日、ハスカップ・セミナー(市民福祉情報オフィスハスカップ主催)が開催された。2013年度4回目となる今回は、「どう変わる? 介護保険 ~社会保障制度改革国民会議の『介護保険制度改革』~」をテーマに、毎日新聞編集委員で政治・社会保障担当の吉田啓志氏と、前大阪大学大学院教授の堤修三氏の2人を迎え、先般の社会保障制度改革国民会議の報告書で示された介護保険改革をいかに読み取るかをそれぞれの視点で語った。

まず、吉田氏が、厚労省が公式に発表していない取材活動で得た事柄も交えながら、報告書のポイントを解説した。

社会保障制度国民会議は、2012年6月、当時の政権与党・民主党と、自民党、公明党の3党が「社会保障と税の一体改革」に合意したことに端を発する。
民主と自公民の意見が対立し、協議が進展しない中、増税とは切り離し、社会保障改革を討議する場として設定されたのが社会保障制度国民会議だが、「民主と自公の対立は続き、こう着状態に。政治が機能しない中、介護保険について議論を深めることなく、今年8月の会期末にまにあわせる形で厚生労働省の意見が次々と盛り込まれてしまった印象がある」と吉田氏。そのため、法案化の過程で政治がどの程度介入してくるか、未知の部分もあるという。

改革の主要施策については、公式・非公式の情報を元に次のように解説がなされた。

■介護予防の市町村事業への移行
介護保険改革の主眼である「サービスの効率化と給付の重点化」。その大きな柱が、要支援の見直しで、現在、介護保険の中で一律で給付している介護予防サービスを段階的に市町村事業に移行する。財源には消費税増税分でつくる基金もあてる。

「要支援の見直しの目的は、これまでの給付建てから事業建てにすること。給付建ては限度額があり、目いっぱい使われたら叶わないというのが厚労省の本音。市町村がそれぞれ提案する事業でやりくりすることで、コストを下げたいという思惑がある」と吉田氏。介護予防事業の財源は確保するとは言っているが、今後高齢化が爆発的に進む中で増加する財源をどう確保するのか。また、市町村の取り組みに差が出ることは「十分考えられる」。

■利用者負担の見直し
一定以上の収入がある高齢者は利用者負担を1割から2割へ増やす方針が鮮明。収入の目安は、医療保険の3割負担を下回る金額を考えているそうで、「専門性が高い医療では、患者は治療方法を医師にゆだねることになるが、介護サービスについては自分で選択が可能。だから医療より少ない収入でも負担してほしい、というのが国の考え方」。

医療保険の場合、70歳以上で夫婦世帯520万円以上、単身世帯で383万円以上を現役並みの収入とし、3割負担としている。介護保険では夫婦世帯で369万円か359万円以上、単身世帯で280万円か290万円以上の2案を考えており、「369万円は被保険者の上位2割、359万円は課税層の上位半分。どちらを政治家が納得するだろうか、ということで2案を出している」。

また、月々の自己負担限度額は住民税課税世帯で上限3万7200円だが、一定以上収入がある人は引き上げて4万4400円にする。対象になるのは医療保険での現役並み所得である夫婦で520万円、単身世帯で383万円以上を想定しており、「自己負担2割と限度額の引き上げとで対象とする収入が違うのは、政治家を説得するための材料と見ている」。

■低所得者の減免措置
「国民会議では低所得者とは何か?ということに焦点を当て、本当の低所得者は手厚く、そうではない人はがまんしてもらうという姿勢が鮮明」。介護施設の補足給付では、これまで課税かどうかで見ていたが、それだと非課税の遺族年金を受給している世帯も含まれ、生活実態に合っているとは言えない。「補足給付は本当の意味の低所得者に限ろう、と厚労省が内々で検討しているのが、収入がなくても貯蓄がある人を対象外にする案。単身で500万円、夫婦で1500万円以上の貯蓄がある人は補足給付の対象外に。これから与党との調整に入るが、この案で政治家が納得するかどうかはの自信はない様子」。

収入が少なくても土地・不動産を持つ人も同様に対象外にし、土地を担保にお金を貸し、亡くなった後に売却して返還してもらう「リバースモケージ」方式を検討しているほか、遺族年金も老齢年金と合わせて一定以上の収入があれば保険料の軽減措置の対象外にするという案も出ている。

その他、特養は要介護3以上を入居とする案、低所得者の保険料を最大5割から最大7割へ軽減する案など、すでに報道されている改革プランの説明のほか、吉田氏の見立てとして、今回は議論に上らなかった介護保険被保険者の適用を40歳以上から20歳以上とする案は、「受給者が増加する2025年に向け、2010年代後半には議論になるだろう」との説明があった。(ケアマネジメントオンライン)