9月4日、社会保障審議会 (山崎泰彦・部会長 以下、部会)の第47回 が開かれ、事務局の厚生労働省老健局から「生活支援、介護予防等」、「認知症施策の推進」、「介護人材の確保」について、それぞれ「現状と課題」と「論点」の資料説明があった。

注目された「要支援認定者の給付(サービス)からの除外」は、「予防給付の地域支援事業への移行(案)」として示され、「要支援サービス移行、格差に懸念 厚労省の介護保険部会」 (2013.09.04共同通信)という報道があった。
なお、次回の第48回 は9月18日で、「在宅サービス関係」と「施設サービス関係」で「現状と課題」と「論点」が示される予定だ。

■“生活支援”の充実
「生活支援、介護予防等」(資料1) は、6項目に分かれる。

朝川知昭・老健局振興課長から、最初に“生活支援”についての説明があった。
一般論として、ひとり暮らし高齢者や高齢夫婦、認知症高齢者などに「地域特性にあった生活支援サービスや見守り等のサービス提供が必要」という「現状と課題」が出された。
“生活支援”は「地域資源」により提供されるもので、提供するのは「自助・互助の考え方に基づく、高齢者自身やNPO、ボランティア、社会福祉法人、民間企業等」など“多様な主体”だという。

具体例にあがっているのは、地域支援事業のメニューである「介護予防・日常生活支援総合事業」と「地域介護予防活動支援事業」のほか、「地域支え合い体制づくり事業」、「高齢者生きがい活動促進事業」(モデル事業)、「地域支え合いセンター」整備事業だ。
これらの“生活支援”サービスの「重層的な提供体制の構築」を行うため、市区町村が中心となって「生涯現役コーディネーター(仮称)」の配置や「協議体の設置」を行うことが「論点」として提案されている。

「介護予防・日常生活支援総合事業」は2012年度から新設され、2012年11月現在27市町村が実施し、要支援認定利用者678人と報告されている(参議院第183回国会「介護予防・日常生活支援総合事業に関する答弁書」 )。「地域介護予防活動支援事業」は介護予防事業の「一次予防事業」の地域活動組織の育成などで、2011年度は1,594市区町村が実施している(厚生労働省老健局「2011年度介護予防事業(地域支援事業)の実施状況に関する調査結果」 )。「地域支え合い体制づくり事業」は東日本大震災の「被災者生活支援等」で仮設住宅に併設される「サポート拠点」の設置費用などが予算化されている。「高齢者生きがい活動促進事業」と「地域支え合いセンター」整備事業は2013年度予算となっている。

ちなみに、厚生労働省職業安定局は6月26日、「生涯現役社会の実現に向けた就労のあり方に関する検討会」 (大橋勇雄・座長)の報告書 をまとめている。

報告書では、「高齢期の就労・社会参加」を促すため、「シルバー人材センター、社会福祉協議会、地域包括支援センター、NPO等の各機関の連携強化を行うため、情報を共有するプラットフォームを作るとともに、地域のニーズを発掘、創造し、意欲のある高齢者を見出し、これらをマッチングさせていくコーディネーターを活用することが重要」としている。そのために、国は「研修機会の提供、モデル的取組を行う地域に対する支援」、市区町村は“プラットフォーム”や“コーディネーター”への地域ニーズの情報提供、必要資金の補助、保有施設の無償あるいは安価な提供などが必要としている。

■要支援認定者を介護予防サービスから “要支援事業”に移す
介護保険制度の給付と関わりのない“生活支援”の提案が最初に行なわれたのは、次のテーマである「予防給付の見直し」につなげるためだ。
要支援認定者は見守り、配食、外出支援、買い物など“生活支援”のニーズが高いので、「地域の実情に応じてサービスを提供する」ために、「全国一律に国が定める予防給付」から「同じ介護保険の枠組みである地域支援事業へ移行する」ことが「論点」とされた。

要支援認定者を地域支援事業に移すための具体案として、①地域支援事業を「新しい総合事業(要支援事業と新しい介護予防事業)」に見直す、②市区町村の判断で“地域資源”を効果的に活用する、③移行しても「介護保険制度内でのサービスの提供であり、財源構成も変わらない」、④移行には「一定程度時間をかけて行う」、⑤地域支援事業の上限設定(現行は給付見込額の3%以内)の見直しを検討する、などが示された。

複数の委員から不安と懸念が表明され、「予防給付の総括ができていない」という指摘や、対象は要支援1のみという折衷案も出たが、大西秀人・委員(全国市長会介護保険対策特別委員会委員長)は「新しい地域支援事業として6,000億円(表2参照)は最低限確保してもらいたいが、市長会として覚悟を決めていきたい」、藤原忠彦・委員(全国町村会長)は「人材確保が難しく、全市町村の実施には猶予期間を十分に」、黒岩祐治・委員(全国知事会社会保障常任委員会委員)は「複数の市町村が共同する地域支援事業があってもいい」など、保険者サイドからは移行案を前提とする発言が相次いで出された。

振興課長は「給付を事業に見直すには3年間くらい必要で、経過的扱いは3年で終わらないと考えている」ので、「現在の利用者は既存サービスを利用できる」とし、「移行により利用できないことがないよう、必要な予算の確保に努める」、「要支援認定、ケアマネジメントは現行と同じ」、「詳細は今後検討する」と答弁した。


■介護予防事業はどうなる?
「介護予防事業の見直し」では、①地域の実情に応じた介護予防を全国展開するため「介護・医療関連情報の『見える化』を推進」、②一次予防事業と二次予防事業を区別せず、地域の実情に応じた運用に見直す、③リハビリテーション専門職を活かした介護予防事業を強化する、という「論点」が示された。

介護予防事業は「予防重視型システムの確立」を掲げ、2006年度改定で地域支援事業のメニューとして新設された。認定非該当の高齢者を対象に、一次予防事業(旧・一般高齢者施策)と二次予防事業(旧・特定高齢者施策)が実施され、二次予防事業の「運動器の機能向上プログラム」(略称・筋トレ)は当時、話題だった。

しかし、二次予防事業は高齢者人口の5%を目標に全国の市区町村で「把握事業」が実施されたが、参加者は2006年の初年度は0.2%、6年後の2011年度が0.8%と極めて低調だ。「2011年度の介護予防の実績」では、一次予防事業に164億円、二次予防事業に276億円と報告があり、二次予防事業の対象者把握に3割強が費やされている。

要支援認定者の地域支援事業(要支援事業)への移行と、②の認定非該当者への地域支援事業(介護予防事業)を市区町村判断にゆだねることはセットになる模様だ。

■制度改定が集中する地域包括支援センター
“生活支援”サービスの充実、要支援認定者の地域支援事業への移行、介護予防事業の見直し、そして第46回 に示された包括的支援事業での「在宅医療・介護の連携強化」、個別地域ケア会議の義務化など、部会で提案される「論点」をみていると、2015年に向けた制度改定の任務は地域包括支援センターに集中する。

現在、全国4328ヵ所に設置され、サブセンター・ブランチを合わせて7,072ヵ所だ。
1センターの平均職員数は5.6人で、①市区町村は業務量に応じて職員を適切に配置する、②従来の人員配置と別に強化を図るという「論点」が示された。
また、現行の地域包括支援センターの7割は委託型で、社会福祉法人と社会福祉協議会がほとんどだが、③市区町村は委託型センターへの方針を強化することが提案された。

また、地域包括支援センターの評価を行っている市区町村は3割足らずのため、④効果的な評価の実施を促進し、地域包括支援センターが一般に知られていないことについては⑤認知度向上を図る、などが示された。

■「認知症施策の推進」も市区町村事業で
「認知症施策の推進」(資料2) では、「認知症日常生活自立度Ⅱ以上の認知症高齢者のうち半数が在宅で生活している実態」に「地域の実情に応じた対応」が必要として、①地域支援事業で認知症施策を充実、②地域支援事業に「認知症初期集中支援チーム」を位置づける、③地域包括支援センターに「認知症地域支援推進員」を設置、④認知症の普及・啓発の更なる推進、⑤医療・介護サービス人材の認知症対応力を更に向上、⑥認知症にやさしい街づくりを積極的に行う、⑦認知症の予防・診断・ケア技術等の確立に向けた研究の積極的推進、などが「論点」とされ、地域包括支援センターの任務はさらに増える。

「認知症初期集中支援チーム」と「認知症地域支援推進員」は、2012年9月に厚生労働省が公表した「認知症施策推進5か年計画」 (オレンジプラン)ですでに提案されているが、「認知症初期集中支援チーム」は2013~2014年度にモデル事業を実施、「認知症地域支援推進員」(認知症施策や事業の選任の企画調整担当者)は5つの中学校区あたり1人の配置が目標で、2017年度末までに全国に700人を配置する予定だ。

■「処遇改善」は介護報酬で検討
「介護人材の確保」(資料3) については、2025年に向けて現在の介護従事者149万人から最大100万人増やす必要に迫られているとして、毎年6.8~7.7万人の人材確保が必要であること、他の産業に比べて離職率が高いこと、平均賃金が低いことが課題として示され、「参入の促進」、「キャリアパスの確立」、「職場環境の整備・改善」、「処遇改善」の4項目が重要とされた。

具体的には、①国は介護報酬改定で処遇改善の取組、認定介護福祉士などキャリアパス制度の確立を進める、②都道府県は介護保険事業支援計画などで人材確保を進める、③市区町村は“生活支援”の担い手を増やす、などが「論点」として示された。

このため、懸案となる給与の引き上げ(処遇改善)は、社会保障審議会介護給付費分科会(田中滋・分科会長)が舞台となる。9月11日の第96回 では、「2012年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査」最終報告が公表される予定だ。(ケアマネジメントオンライン)