7月29日、東京・千代田区で地域包括ケア研究会セミナー「2025年に向けた新しい地域づくり-地域包括ケアシステムの構築を目指して-」が催された(主催:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)。このセミナーは東京を皮切りに、仙台、大阪、福岡、宮古でも開催。各地で、慶應義塾大学大学院教授・田中滋氏あるいは国際医療福祉大学大学院教授・高橋紘士氏による基調講演に続き、会場により異なる複数のパネリストの組合せでパネルディスカッションが行われた。ここでは、東京会場でのパネルディスカッションから、地域包括ケアシステム構築におけるケアマネの役割について考える。

この日のパネラーは、千葉県松戸市で在宅医療、地域での多職種教育に尽力している医師の川越正平氏(あおぞら診療所院長)、基調講演を行った高橋氏、オランダの介護情勢や人事管理に詳しい研究者の堀田聰子氏(労働政策研究・研修機構研究員)、そして厚生労働省老健局局長の原勝則氏。参加者は地域包括ケアシステムの推進役である各地の自治体職員が1/3、介護サービス事業所職員が1/3を占めた。

■地域で暮らす仕組みを考え、作るのは自分たち
このパネルディスカッションで各パネラーが繰り返し語ったのは、なぜ今、地域包括ケアシステムが必要なのか、ということ。すでに何度も語れてきたことではあるが、それでも今回、パネラーが言葉を変え、口々に訴えたのは、まだその理念が浸透していないからだろう。

では改めて、地域包括システムが必要なのはなぜか。
超高齢社会となり、医療は「急性期治癒モデル」から「慢性期ケアモデル」への転換が必要となった。堀田氏は、健康の概念が変わってきたことを指摘。「病気でないことが健康なのではなく、病気でもその状態を維持しながら暮らしつづけることこそが、超高齢社会における健康」と語る。つまり、今や、病院で治療を受けて治すことだけを考えるのではなく、病気と付き合いながら地域でいかに暮らしていくかを考える時代となったということだ。

住み慣れた地域でいかにして生活の質を維持向上させながら暮らしていくか。その方法論は各地域によって違う。川越氏は、「地域を一つの単位として捉えることで、その地域特有の事情にマッチした医療体制、効率性の高い介護体制を作れる」と語る。だからこそ、それぞれの地域で、住民が自分たちの考える最善を選び、実現していくことが大切なのであり、それこそが地域包括ケアシステムだというのだ。

このシステムは自治体職員だけで作れるものではない。介護職、医師、看護師、地域住民など、地域に関わる人々が、自分たちが暮らす地域にはどのような仕組みとサービスが必要なのか、同じ方向を向いて考えていかなくてはならない。

■多職種協働は異国人交流と同じ!?
地域に実情にあった仕組み作りには、必ず多職種での協働が必要になる。川越氏は、「医師に、多職種で協働することでいかに医師が他の職種に助けられ、楽になるかという成功体験をしてもらい、医師をその気にさせることがカギ」と語る。その一方で、たとえば診察前や手術前など、医師がナーバスになっている時間帯に突然意見を求める連絡をしてくるなど、ケアマネを含めた介護側の配慮を欠いたアプローチが連携を困難にする一因となっている、ともいう。

これは様々な場で指摘されている問題でもある。双方に連携の意思があっても、アプローチが適切でないためにうまくいかないのは残念なことである。川越氏は「多職種協働とは、言語が異なる外国人と話すことだと考えるとうまくいく」と思い切った表現をし、会場を沸かせた。実際、職種が異なれば共通言語が少ない場合もある。それを考慮せず、それぞれの言語、枠組を他の職種に押しつけてしまってはなかなかうまくいかない。異国人だと考えて、まず相手を知り、共通言語を作っていく努力をすることが早道だとも言える。

関係づくりを進めていく上で、川越氏は「地域で多職種での研究会を開催してほしい」と訴える。ケアマネ、ヘルパー、デイサービスなど、それぞれが持つ情報やスキル、ノウハウを共有できる機会を作り、共通言語を増やしていくことが必要だというのだ。

■ケアマネも地域作りに主体的に関わってはどうか
また、高橋氏は、「事業者単独で仕事をすることを辞めてはどうか。合同会社など、地域事業体をそろそろ考え出す時期にある」と語った。これはある社会福祉法人の総合施設長も語っていたこと。介護付き住宅ならぬ「介護付き地域社会」を作ってはどうかというアイデアだ。

こうしたアイデアは、手広く事業を運営している社会福祉法人の施設長やこの分野の研究者でなくては思いつかないものだろうか。いや、事業者とも利用者とも関わりの深いケアマネは、その地域においてどのような仕組みやサービスを求める声が多いか、実感値としての情報を持っているはずだ。しかし、すでに手にしている情報を整理し、新たな仕組み作りに主体的に関わっていこうというケアマネは、残念ながらまだ多くない。

セミナーの最後に原氏は、「地域包括ケアシステムは地域作りであり、地域作りは地方自治=住民自治だ」と語った。住民に分け入って活動している介護職、中でもケアマネが、地域包括ケアシステム構築で果たせる役割は大きい。サービス担当者会議開催など、多職種での協働についても十分な経験と実績があるはずだ。

そういう意味では、地域包括ケアシステム構築とは、介護保険制度開始以来、ケアマネが自分自身の中で蓄積してきた情報やノウハウを有意義な目的に向けてアウトプットできる好機だとも言える。そのことを意識して前向きに、時には動きの鈍い自治体を動かす気概を持ってこの仕組み作りに関わっていくか。あるいは、自治体が進める方針が降りてくるのを待つか。それによっては、ケアマネの質の向上云々と言っている周囲の目も変わってくるのではないか。

どう取り組むかは個々のケアマネ次第だ。(ケアマネジメントオンライン)