地域医療福祉情報連絡協議会は、6月28日、東京都内にて、第5回シンポジウム「2025年に向けて高齢化時代の医療と介護~新たな連携の在り方」を開催した。
シンポジウムから基調講演「地域包括ケアシステムを『包括的』に理解するために」を紹介する。

講師の田中滋・慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授は、医療経済学や医療経営学で多くの業績を残し、今年社会保障審議会委員、介護給付費分科会会長に就任。地域包括ケアシステムの、いわば「生みの親」的存在だ。

講演では、「2025年問題」や「共助」などのキーワードを盛り込みながら、地域包括ケアシステムが主導する日本の介護の将来ビジョンが論理的に説き明かされた。

■介護保険の理念を阻むもの
地域包括ケアシステムの前に、介護保険制度の課題について話があった。田中氏によると、現在、介護保険が抱えるさまざまな問題の多くは、制度の運営が必ずしも十分に機能していないことに原因があり、その理由は制度の理念が十分に共有されていないことにあるという。

「介護保険の理念は、自立支援です。しかし、多くのケアプランは『お世話型』であり、利用者や課題を客観的、クールに分析して行うべきアセスメントも十分ではない。このことは、『尊厳ある自立を支援する』という基本理念が、介護保険が始まって10年以上たっても浸透していないことを示しています」

団塊の世代が75歳になる「2025年問題」対策が待ったなしの今、「自立支援」という基本を確認することが必須だという。

そして、介護保険制度・介護分野の施策を“2000年バージョン”と“2025年バージョン”にわけ、それぞれの使命・価値・買い手などを分析。使命なら2000年が「適切な処遇を受けていない虚弱高齢者の増大に対処」だったのに対し、2025年は「地縁血縁の弱い高齢者への対応」、価値は2000年が「介護の社会化」、2025年が「住み慣れた地域での在宅限界上昇」になるという。

「2025年に団塊の世代が後期高齢者になった時、住み慣れた地域で生活を継続できるようにするのが地域包括ケアシステムの目的です。団塊の世代が多く住んでいる大都会近郊は地縁や血縁がありません。その時、介護保険制度の理念には『尊厳ある自立支援』だけではなく、自己能力の活用=残存能力の活用が加わることになります」

安倍政権は、介護をはじめ社会保障の分野において「自助」に重きを置く発言をしており、「自助か公助か」が議論になっているが、田中氏は、「社会保険は自助または公助ではなく、共助」との定義の元、財源やサービスを整理。

「医療や介護保険は、保険料を支払っても使っているのは成人の10%です。しかし、使用していない人も支払うことで自分の家族がサービスを受けることができるという『安心感』を得られます。このように社会保険制度の本質は共助であり、同時に権利性があるものということを理解してください」と語った。

■地域包括ケアシステムが目指すもの
また、地域包括システムの概念図についても、従来の「介護・医療・予防・生活支援・住まい」が相互に連関するものから、ベースに「住まいでの生活の継続」を置いたものに移行していると述べ、2025年に向けた進化型の地域包括ケアシステムでは、「住まい」=コミュニティでの生活継続に、生活支援・福祉の機能を載せ、そこに医療・看護、介護・リハビリテーション、保健・予防が絡むものになるそう。

さらに、2025年型の地域包括ケアシステムでは、地域マネジメントが一層重要になり、地域マネジメントがうまくいくかどうかは、自治体が主導する地域ケア会議が機能するか否かにかかっているとの説明がなされた。

「2025年まであと12年、地域包括ケアシステムの意味をいかに伝えていくかは大きな課題」と田中氏。会場に多く詰めかけた自治体関係者に、それぞれの地域でどのように地域包括ケアシステムを作っていくかを議論し、推進してほしい、呼びかけた。

全般にマクロな視点で語られた講演ではあったが、訪問介護サービスについては「介護にあたるのは身体介護、認知症の重い人の生活支援、リハビリ。食事の準備や買い物などの生活援助は介護ではない」と述べたほか、軽度者を介護保険制度から自治体の事業へと移行しようとする動きについての世間の反応には「切り捨てるのではなく、サポートシステムを作ろうとしているのを間違って報道されている」と批判した。

「中核概念」「市場」「ニーズ」「ウォンツ」など、経営やマーケティング分野のタームが多用された講演は、システムの構築や運用を考える立場にいない者には正直なところ難しかったが、未曾有の高齢化を迎える日本社会のニーズに合致するほぼ唯一のものとして、地域包括ケアシステムが選択されたということは理解できた。

「地域包括ケアシステムで作りたいのはケアつきコミュニティ。介護保険だけの将来ビジョンではない」と田中氏。「介護保険制度改悪」「弱者切り捨て」との言説は、地域包括ケアシステムを理解せず、介護保険制度の存続を阻害するものになるということだろうか――さまざまに考えさせられた講演だった。(ケアマネジメントオンライン)