6月6日、第45回社会保障審議会介護保険部会 (山崎泰彦・部会長 以下、部会)が開かれ、翌日には『介護保険「軽度者」焦点 厚労省審議会 対象から外す案』(朝日新聞)と報道された。

部会は2015年介護保険制度改定に向けた議論を行なう。しかし、消費税引き上げとともに社会保障全般の見直しを議論する社会保障制度改革国民会議 (首相官邸、清家篤・会長 以下、国民会議)が4月22日、「これまでの国民会議における議論の整理(案)(医療・介護分野)」 (以下、整理案)を公表し、先行して検討を行なっている。

部会では国民会議の提言も含めて、2015年介護保険制度改定について今秋以降のテーマを整理するとしているが、第43回(4月25日)、第44回(5月15日)に引き続き、今回も整理案を中心に26人の委員から自由発言が行なわれた。

■2015年改定の主なテーマ
国民会議と部会のほかに、財政制度等審議会 (吉川洋・会長、財務省)はすでに5月27日、『財政健全化に向けた基本的考え方』 で「医療・介護保険制度の改革」を提言している。
6月5日現在、国民会議と部会、財政制度等審議会の3機関が公表している見直しのおもなテーマをまとめるとつぎのようになる。

1.介護保険料 … 第1号保険料の低所得者軽減策、第2号保険料の総報酬割導入による引き上げ
2.利用料 … 1割負担の引き上げ(応分負担、応能負担、要介護度に応じた負担など)
3.ケアプラン … 地域ケア会議の義務化(市区町村による個別ケアプランチェックの実施)
4.要支援認定者への給付(介護予防サービス) … サービス(給付)からの除外、市区町村事業への移行
5.デイサービス … 重度化予防に重点化
6.施設サービス … 中重度者に重点化
7.施設サービスの補足給付 … 資産、非課税年金、配偶者所得などの勘案
8.そのほかの論点 … サービス付き高齢者住宅、低所得高齢者の住まい


■「軽度者」へのサービスの見直し
部会では「4. 要支援認定者への給付」について、要支援認定者を介護予防サービス(予防給付)から市区町村事業(地域支援事業)に移行させるプランを支持する意見が多い。
代表的なのは「地域の自由な活動を展開するため、市区町村事業への移行を進めるべき」、「要介護度の改善に効果がないものは抑制する方向を出すべき」などだ(参考資料2「介護保険部会における主な議論〈未定稿〉」)。  

介護予防サービスを市区町村事業に移行することは、すでに2011年の介護保険法改正で地域支援事業に「介護予防・日常生活支援総合事業」(以下、総合事業)を新設し、市区町村判断で要支援認定者を介護予防サービスから総合事業に移行させることができるとしたことで準備済みだ。ただし、第5期(2012~2014年度)介護保険事業計画で総合事業の実施を予定しているのは132保険者と1割に満たず、現在は27保険者の実施と報告されている。

事務局の厚生労働省老健局が提出した「前回(5月15日)依頼のあった資料」 (資料1)の「認定関係のデータ」では、特に要支援認定率(=第1号認定者数/第1号被保険者数)に都道府県格差が生じていることが示された。委員からは「都道府県のバラツキが大きすぎるのは制度の信頼性に関わる」という指摘があったが、「認定率の地域格差はあってもいい。予防給付も地域格差があっていい」という意見も出された。

また、「予防給付の効果」では、要支援1で認定ランクの維持率68%、要支援2では軽度化が11%、維持率は68%という調査結果が報告された。委員からは「予防給付に効果がないとは言えない」という慎重派、「制度で対応しなくていい。元気な高齢者を作っていくべき」という切り捨て派、「市区町村事業への移行は要支援1に限るべき」という中間派などの意見が出された。

■認知症高齢者は約439万人?
部会ではまた「認知症有病率等調査 都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」 (資料6)が出された。ちなみに、この資料は6月1日、『認知症高齢者462万人、新推計で160万人増』(読売新聞)、『認知症、高齢者の15%に 厚労省調査、85年から倍増』(朝日新聞)など、すでに報道されている。

調査(厚生労働科学研究費)は筑波大学が実施したもので、2010年推計で「全国の認知症有病者数」は約439万人、「全国のMCI有病者数」は約380万人と報告されている。MCIとは「正常でもない、認知症でもない(正常と認知症の中間)状態の者」と定義されている。

厚生労働省は「認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ以上の高齢者数」を280万人(2012年8月)と公表しているが、調査では「要介護認定者(日常生活自立度Ⅰ)又は要介護認定未申請者」は70万人~217万人と幅のある数字を報告している。

委員からは「オレンジプラン(認知症施策推進5か年計画)は認知症高齢者305万人が基本の計画だが、見直す必要があるのではないか」、「要支援認定者にも認知症者が含まれている可能性は高い」などの指摘もあった。
これまでの委員の発言は、厚生労働省老健局がまとめて、秋以降の本格的議論に備えるという。だが、改定の焦点のひとつとなる「『軽度者』へのサービスの見直し」の行方は、国民会議が提言をまとめる8月までが議論の山場となる模様だ。(ケアマネジメントオンライン)