株式会社日本総合研究所は6月20日、厚生労働省の委託を受けて実施した、平成24年度介護支援専門員研修改善事業のとりまとめ結果を公表した。

同事業は、現行のケアマネジメントの実態と課題を明らかにし、介護支援専門員の研修などに反映させることを目的とした「ケアマネジメント向上事業」として実施された。

具体的には、利用者それぞれのケアプランを作成する際の経緯や介護支援専門員の意図を多職種間で共有するねらいで開発された「課題整理表(仮称)」「評価表」について、効果や問題点を把握するための実証を行った。
あわせて、多職種間の連携や介護支援専門員が知識や気づきを得る機会などの機能が期待される地域ケア会議の運営方法の参考のひとつとして「公開ケア会議」を開催した。昨年11月から今年2月にかけて開催された「公開ケア会議」については本サイトでも報告を続けてきた。
さらに、これらの実施結果の評価と今後期待される取り組みについて、「ケアマネジメント向上会議」にて検討を行った。

とりまとめでは、「ケアマネジメント向上会議」で検討した課題整理表(仮称)などの検証と、公開ケア会議の実施結果について報告している。主な内容は以下の通り。

1)課題整理表(仮称)および評価表の実証事業結果の検証

■課題整理表(仮称)および評価表の背景と目的
介護支援専門員によるケアマネジメントやケアプランについては、社会保障審議会介護給付費分科会や社会保障審議会介護保険部会において、「利用者の意向を踏まえつつ、そのニーズを的確に反映したより自立支援型、機能促進型のケアプランの推進が求められている」「利用者像や課題に応じた適切なアセスメントができていな
いのではないか」といったことが指摘されている。

また、ケアプランには、なぜその「生活全般の解決すべき課題(ニーズ)」となったのかの根拠(介護支援専門員の考え方)が記載されていないことから、多職種との情報共有が困難であったり、利用者の状態を踏まえたケアプランの見直しが行いにくいといった課題も指摘されている。

そのため、「生活全般の解決すべき課題(ニーズ)」を抽出した過程を可視化することで、チームケアに参加する多職種が利用者・家族の状況に対して情報を共有し共通認識を持ちやすくしたり、初任段階の介護支援専門員が主任介護支援専門員等から助言を受けやすくしたりすることを目的として課題整理表(仮称)を策定し、実証事業を実施した。課題整理表には、ケアプランには反映できなかった課題を記録できるようにすることで、保険者が地域に必要なサービスを把握しやすくなることも期待できる。

実証事業における課題整理表(仮称)に対する評価は、(1)介護支援専門員自身にとっての効果、(2)多職種間の情報共有に対する効果、(3)ケアプランに反映できなかった課題を把握する効果のそれぞれの視点から検討した。

■課題整理表(仮称)および評価表の実証結果
・課題整理や多職種連携への効果に関する実証結果
実証事業に参加した介護支援専門員による課題整理表(仮称)に対する評価を見ると、半数超が「役に立つ」との評価であり、具体的な効果として、「情報収集の抜け漏れを防げる」「優先的に取り組むべき課題を特定しやすい」といった点があげられた。また、多職種間の情報共有に関する効果として「多職種と同じ分析項目で現状を共有できる」「見通しを共有できる」点があげられた。

一方で、「課題整理表(仮称)がなくても課題を整理できる」との意見も見られた。また、慣れていないために当初は負担感が大きいこと、業務システムが対応していないために作成負担が大きいこと、多職種の視点が合わずに情報共有が進まないことが課題として指摘された。

以上の点をふまえると、課題整理表(仮称)の様式や記載方法をより明確化し、多職種にもその内容を周知することで、業務経験年数の短い介護支援専門員の資質向上や、多職種間での情報共有への活用に関して効果的であると評価できる。

■ケアプランに反映できなかった課題の把握に関する実証結果
実証事業にて、ケアプランに反映できなかった課題があった事例は約2割であり、その理由として「サービスがない」「サービス量が不足」といった点があげられた。
このような結果を踏まえると、課題整理表(仮称)を活用することで、地域に必要なサービスを把握することにも効果的であると評価できる。保険者が個々の支援事例に基づいた課題を把握しやすくなることで、より具体的な介護保険事業計画の策定にも寄与すると考えられる。

■評価表に関する実証結果
評価表については、実証事業の中で作成した事例が少ないものの、「役に立つ」との評価が半数超であった。実証事例が少ないものの、モニタリングにおける適正な評価を推進するツールとして効果があると考えられるが、課題整理表の精査とあわせて引き続き検証を重ねる必要がある。

■今後期待される取り組み
・課題整理表(仮称)の様式の見直し
課題整理表(仮称)については、実証事業に際して設定した各視点について概ね効果があると評価できる。ただし、項目や課題を導くまでの流れが整理されていないなどの要因から「作成負担が大きい」「各欄に記載すべき内容の例示が十分に定まっていないために判断に迷う」といった問題点が明らかになっており、その解決が必要である。

具体的には、実証に用いた様式のうち「判断した根拠」「予後予測」の欄について、どのような内容を記入するかが端的に分かりにくかったために、幅広い内容を大量に記載していた事例が多かった。これに伴い課題整理表(仮称)を作成する負担も大きなものとなっていた。
したがって、実証結果を反映して課題整理表(仮称)の様式を簡素かつ明確なものに見直すとともに、今後、実証事業で収集した事例を踏まえ、さまざまな事例における記載例を提示し、発信していくことが必要である。

■課題整理表(仮称)の活用方法
様式の見直しと記載例の提示を行うことを前提とした上で、以下のような場面での取り組みが期待される。

・介護支援専門員の養成研修での活用
利用者・家族からはもとより多職種からも情報を収集・整理し、利用者の自立を阻害している要因を分析して課題を抽出する過程は、介護支援専門員の専門性が求められる最も重要な能力のひとつであり、その思考過程を最初にしっかりと身に付けることが重要である。

研修で活用するにあたっては、課題整理表(仮称)の考え方や効果について、各都道府県で研修を実施する講師に理解してもらう必要があり、講師の養成に取り組む必要がある。そのため、介護支援専門員の養成研修で活用するにあたっては、課題整理表(仮称)の考え方や記載方法・効果などについての要領を作成し、講師の指導者研修を実施することが考えられる。

・介護支援専門員自身の確認・振り返りやサービス担当者会議での活用
実証事業で明らかになった介護支援専門員自身にとっての効果を踏まえると、介護支援専門員が情報の抜けやもれの確認や優先すべき課題を特定するために利用したり、サービス担当者会議などで事業者や利用者に情報提供したりする際に活用することが考えられる。

課題整理表(仮称)は、情報の収集・分析の過程に利用するものである。自立支援を促進する観点からは、特に、初めて介護保険サービスを利用したり、退院退所等により生活の状況が大きく変わったりした場合に、医師をはじめとする多職種の意見も収集しながら、サービス担当者会議等で課題整理表(仮称)を活用して課題を整理することが推奨される。

・地域包括支援センターにおける地域ケア会議などでの活用
介護支援専門員の支援と、地域に必要なサービスを把握するためには、包括的・継続的ケアマネジメント支援業務の一環として、地域包括支援センターの職員が、課題整理表(仮称)の活用方法及び指導方法を修得し、居宅介護支援事業所の介護支援専門員の支援や地域ケア会議において活用することが考えられる。

特に、個別事例の検討を通して地域に必要なサービスの把握等を図る地域ケア会議では、多職種が同じ視点で情報共有するとともに、ケアプランに反映できなかった課題を明らかにすることが必要であることから、そのツールとして課題整理表(仮称)を活用することが推奨される。ただし、地域ケア会議については、現時点で、その開催状況や運営方法が地域によって大きく異なっていることを勘案し、まずは会議を主催する地域包括支援センターの職員が課題整理表(仮称)の活用方法を修得することを推進することが必要である。

・課題整理表(仮称)記載内容に対する利用者との合意
実証事業の結果を踏まえると、課題整理表(仮称)で抽出された課題は、ケアプランに反映されなかった課題以外は、そのままケアプランの第2表に記載されるものとして取り扱うことが妥当である。一方、ケアプランに記載される課題は、介護支援専門員がケアプラン(原案)で提案するものを踏まえて、利用者と合意して確定するものである。
したがって、課題整理表(仮称)の記載内容についても、基本的に利用者と合意すべきものであると考えられる。

・評価表の取り扱い
評価表についても、モニタリングにおけるケアプランに位置づけられたサービスの適切な評価を推進するため、介護支援専門員の養成研修の中で活用することが考えられる。また、事業所においても、評価表を活用するなどして評価を実施することが推奨される。

2)公開ケア会議の開催について

■公開ケア会議の開催結果に対する評価
公開ケア会議は、具体的な介護支援専門員の思考過程の事例に基づき、多職種の協働による評価・検証を通じて、ケアプランの実態と課題を把握し、ケアマネジメント向上のための改善方策を検討することを目的としたもの。会議は、各地域の地域包括支援センターなどが主催する地域ケア会議での個別事例の検討を中心とする会議運営のひとつとして参考にもなるものである。

個別事例の検討を中心とした会議は、特に、多職種によるアセスメントや支援内容に対する助言、医療との連携やインフォーマルサービスの組み込みなどの支援、担当の介護支援専門員が知識や気づきを得る機会の提供、あるいは会議の主催者などが地域で必要とされるサービスを把握する機会を得るなどといった意義を持つ。

こうした意義を踏まえると、第3回公開ケア会議で行ったように、担当の介護支援専門員だけでなく各サービスの担当者もあわせて会議に参加し、多職種の専門的見地から具体的に助言してもらうことは有効である。また、このときに課題整理表(仮称)を活用することで、支援内容だけでなく、課題の整理などに対しても各職種の視点からの助言を引き出しやすくなる。

ただし、個別事例の検討を介護支援専門員の資質向上の支援につなげるためには、多職種が各々の専門的な視点から、各事例の利用者の状態などを適切に把握して具体的に助言できること、また、そうした助言をまとめ、より良い利用者支援につなげることができるファシリテーターが必要となる。地域包括支援センターなどが主催する地域ケア会議の開催状況や運営方法が地域によって大きく異なっている現状を考慮しても、会議における助言者とファシリテーターの養成が必要と考えられる。

■今後期待される取り組み
・公開ケア会議の取り扱い
各地域の地域包括支援センター等が主催する地域ケア会議の開催状況や運営方法は、地域によって大きく異なる。特に、個別事例の検討を中心とした会議については、開催したことが無いために具体的なイメージが湧かないという地域包括支援センターあるいは保険者も多いと考えられる。

こうした状況を勘案すると、地域包括支援センターなどが主催する地域ケア会議における個別事例の検討の参考となるよう、国において普及に向けた取組として、今後も公開ケア会議を継続して開催することが妥当である。その際、第3回公開ケア会議で実施したように、担当の介護支援専門員だけでなく各サービスの担当者もあわせて会議に参加することが妥当である。

・地域ケア会議に参加する他の専門職およびファシリテーターの養成・研修
地域包括支援センターなどが主催する地域ケア会議を円滑に実施するためには、前述のように、助言者(介護支援専門員の他の専門職)やファシリテーターの養成・研修も必要である。
したがって、各職域における専門職の養成・研修の場としても公開ケア会議を活用することが考えられる。(ケアマネジメントオンライン)

◎株式会社日本総合研究所
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