厚生労働省は4月25日、第43回社会保障審議会介護保険部会を開催した。
今回の議題は、今後の社会保障制度の行方を占う「社会保障制度改革国民会議の議論について」。
社会保障制度改革国民会議(以下「国民会議」)は、平成25年以降も7回の会議がもたれてきた。国民会議でのこれらの議論を受け、今後、医療、介護など、それぞれの分野での本格的な話し合いになる。

今回は、医療・介護を取り上げた第7回以降の議論を整理し、特に介護に関連する重要ポイントを紹介する。これを見ると、国の方向性が、医療・介護費の抑制、保険料は所得ごとの応能負担、在宅看取りの推進、といった未来図が見えてくる。そして、要支援者の介護給付範囲の適正化など、「サービスはがし」がはっきりと文書化されている。(ケアマネジメントオンライン)

■基本的な考え方
・社会保障の改革は、社会保障の持続可能性のみならず、地域経済の持続可能性の観点から重要。
・社会保障と人口動態、経済、産業、雇用の関係性と今後の方向は、地域ごとに異なっており、そのあり方は地域ごとに考えていく必要がある。
・消費税に見合った社会保障改革が行われるかが重要であり、医療・介護1.6兆円の充実・効率化それぞれの内容を明らかにすべき。

■健康の維持増進、疾病の予防及び早期発見
・健康寿命の問題は、医療も含め、地域にあった包括的なシステムが必要。各自治体が取り組むべき。
・高齢者の社会参加を通じた介護予防を推進。

■医療従事者、医療施設等の確保及び有効活用等
【医療・介護の提供体制の在り方】

・医療、介護、看取りまで継ぎ目のない地域医療・包括ケアを目標として各地域の医療・介護需要ピーク時までの地域医療・包括ケアビジョンを作成すべき。その際、地域医療ビジョンは、平成30年度とは言わず前倒しで作成。そのビジョンの実現に向けて、都道府県は地域医療計画を、市町村は地域包括ケア計画を、一定年間隔で策定すべき。それに沿った医療機能の分化・連携を促すための基金を創設(財源として消費税増収を活用)し、診療報酬や介護報酬による利益誘導ではなく、まずは補助金的手法で誘導すべき。医療機能の分化・連携が進んだ後、補助金的手法にあてていた消費税増収分を、順次医療機能ごとの診療報酬重点配分に移行していくべき。
・基金による財政支援は、地域医療・包括ケアビジョンの実現に向けて、具体的な地域医療計画・地域包括ケア計画が策定され、計画の実効性確保の手段も整備されることを前提とすべき。
・地域包括ケア計画は、市町村が主体となって、地域の高齢化ピーク時までの計画を策定し、介護だけでなく、在宅医療、住まい、生活支援、予防を位置づけるべき。特に「住まい」の確保は、長期療養患者や介護施設からの軽度要介護者の受け皿としても重要。

【在宅医療と在宅介護の連携の在り方等】
・病院頼み、介護施設頼みからの脱却をはっきりと示すべき。看取りの体制さえできないという危機感を持って対応すべき。
・市町村が中心となって、地域で医療と介護を一体的に提供できる体制の整備を図るべき。医療・介護の連携・調整の機能は法律上に位置付ける。
・老後の暮らしの質を良くする観点から、医療と介護をどう連携させるか考えるべき。
・「キュア」から「ケア」重視の生活支援と看取りの体制を確保するため、医療と介護が一体化した地域包括ケア体制を構築するべき。原則、すべての診療所を在宅療養支援診療所とすること等を検討すべき。また、地域包括ケアへの参画を条件に、こうした診療所や、これを利用する患者への優遇策を検討するべき。
・高齢化が進む環境下で効率的に都市サービスを供給する体制が必要であり、都市のコンパクトシティ化と、それに応じて医療・介護施設を含めた必要な都市機能の再配置を行うべき。

【医療法人制度等の在り方】
・地域を起点とした公的安心サービス提供基盤の整備を進めていくため、病院の統合・再編による機能の集約化・分化と、医療・介護と高齢者向け住宅を結合すべき。
・医療法人制度及び社会福祉法人制度については、新しいまちづくりを促進する仕組みの構築が必要であり、具体的には、医療法人制度(及び社会福祉法人制度)の経営統合を促進する制度、医療法人(及び社会福祉法人)の「非営利性」を担保しつつ都市再開発に参加できるようにする制度、ヘルスケアも含むコンパクトシティに対する資金調達手段を促進する制度など、総合的な規制の見直しが必要。
・社会福祉法人こそ、経営の合理化、近代化が必要。大規模化や複数法人の連携を推進。加えて、社会福祉法人非課税扱いとされているに相応しい、国家や地域への貢献が求められるべき。低所得者の住まいや生活支援などに積極的に取り組むべき。

【人材の確保】
・介護人材の確保については、処遇改善とキャリアパスの確立が重要。
・生産年齢人口の急速な減少の中、看護師や介護職員の確保が課題。

 【医療関連データの収集・分析等】
・医療、介護、看取りまで継ぎ目のない地域医療・包括ケアを創生するためには、人口推計をはじめ、地域の特性に配慮した医療介護資源とニーズに関連するデータの可視化が重要。各地域からの報告内容の妥当性をチェックするとともに、既存データを集約・統合し、足らざるデータは収集することにより、住民、地域医療計画、地域包括ケア計画作成者に提供していくべき。
・地域の実情に応じた地域包括ケアシステムを構築する上で、地域の特徴や課題が客観的に把握できるようにデータを整理し「見える化」。

■医療保険における療養の範囲の適正化等
・現世代の負担増・給付抑制によって、将来世代の負担増・給付減を緩和する視点が不可欠である。
・中高所得層高齢者の本人負担の引き上げ、給付範囲の見直し・効率化を図るべき。
・際限ない高齢者向け給付の増大は現役世代の生活設計を破綻させるため、「年齢別」から「経済力別」へ負担の原則を転換すべき。

■個人の尊厳が重んぜられ、患者の意思がより尊重されるために必要な見直し、人生の最終段階を穏やかに過ごすための環境整備
・病院頼み、介護施設頼みからの脱却をはっきりと示すべき。看取りの体制さえできないという危機感を持って対応すべき。
・死生観・価値観の多様化が進む中、医療保険・介護保険で全てに対応するのは財政的に限界であることを踏まえ、抑制する範囲を皆で決める必要がある。

■介護サービスの効率化及び重点化
・医療の機能分化のためには、しっかりした地域包括ケアを構築すべき。介護施設利用の適正化のためにも町のインフラ作りの全体的な取り組みが必要。介護は、24時間巡回型介護、訪問看護などで、重度要介護者の在宅生活限界点を高めるべき。サービス付き高齢者住宅(住まい+生活支援等)を整備し、そのため、空き家・空き施設など既存社会資源を有効活用すべき。
・介護について重点化・効率化が求められており、骨太の方針を示すべき。
・継ぎ目のない「医療」「介護」システム構築の観点からの医療・介護の自己負担・利用者負担の整合性確保が必要。70-74歳の現役並み所得の医療費自己負担3割。ところが、介護に移行すると利用者負担1割。他方、75歳以上の高齢者では「医療」から「介護」へ移行しても1割負担のままであり、全体の整合性を確保していくべき。
・利用者負担の在り方については、一定所得以上の所得がある者や預貯金などの資産を有する者には、応分の負担を求めるべき。
・軽度の高齢者は、見守り・配食等の生活支援が中心であり、要支援者の介護給付範囲を適正化すべき。具体的には、保険給付から地域包括ケア計画と一体となった事業に移行し、ボランティア、NPOなどを活用し柔軟・効率的に実施すべき。
・デイサービスは、重度化予防に効果のある給付への重点化などが課題。
・引退後の引きこもりを予防し、地域の人的資源として活躍を促進するため、自治体による各種サポーター養成講座の提供、地域貢献活動の紹介により、地域の助け合い活動を拡大し、保険のカバー範囲を見直すべき。
・特別養護老人ホームは中重度者に重点化。軽度者を含めた低所得高齢者の住まいの確保が新たな課題。
・補足給付は、所得だけではなく、預貯金や不動産などの資産を勘案して給付すべき。また、低所得となる所得や世帯のとらえ方について、遺族年金等の非課税年金、世帯分離された配偶者の所得等を勘案するよう見直すべき。

■低所得者をはじめとする国民の保険料に係る負担の増大の抑制
・介護保険料の低所得者軽減の強化が必要。
・介護保険では、現役世代の保険料負担の公平性は保険料で調整すべきであり、第2号被保険者の介護納付金について、総報酬割を導入すべき。
・介護納付金の総報酬割導入については、負担の公平化の観点から応能負担の強化が課題になるが、後期高齢者医療支援金の見直しとの関連も整理の上で導入。
・後期高齢者支援金の全面総報酬割と合わせて介護納付金の総報酬割の検討も必要。