先月、下記のような報道がありました。
『相続税対策を相談した税理士法人が課税リスクの説明を怠ったため、損害を受けたとして、不動産会社(東京)が○○○○税理士法人(同)に約3億2900万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁(宮坂昌利裁判長)は30日、 全額の支払いを命じる判決を言い渡した。
判決によると、不動産会社の元代表(故人)は2011年、顧問だった同法人からアドバイスされた相続税対策を行ったところ、 この対策によって不動産会社に法人所得が新たに発生し、法人税など約2億9000万円を課税された。
判決は「同社が課税リスクの説明を受けていれば、 法人税が生じない別の方法で相続税対策を行ったはずだ」と指摘。同税理士法人が説明義務を怠ったと判断した。
(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/20160530-OYT1T50144.html 』
詳細は私は知りませんので記事&他の記事で読んだ範囲で。
どうやら、一審では、DESにおける債務消滅益課税の説明義務を怠ったと認定されたようです。
DESは「Debt Equity Swap」(デット・エクイティ・スワップ)の略で、日常会話的には略して「DES」(デス)と呼ばれます。
DESの手法自体の手続きは複雑なものではありません。
現物出資(会社法207条)の一類型であり、債務者に対する債権が現物出資財産である場合に限ってDESと呼ぶ、というだけの話です。
オーナー会社におけるDESによる相続税の節税は、市販の節税本にもよく載っているので読んだことがある人も結構いらっしゃると思います。
オーナーが自分の会社に対して有する貸付金債権を株式に変えることで、債権としての評価ではなく、株式としての評価にすることで相続税を軽減する、という手法です。
裁判所としては「3億円近くの法人税負担リスクを説明しないのはダメでしょ」とでも判断したのでしょうか。
記事によれば「同社が課税リスクの説明を受けていれば、 法人税が生じない別の方法で相続税対策を行ったはずだ」とあります。
・・・ということは、平成18年(2006年)に改正された「DESに伴う債務消滅益課税」の説明が漏れていたと認定されたことが推測されます。
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下記以降は冒頭の記事とは関係がない一般的な事項として書きます。
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大きな金額が絡む行為に注意が必要です。
なぜなら、税務の場合、上限が無く青天井 だからです。
どうしても、金額が大きい案件ほど石橋をたたいて渡ることが必要になりますね。
それはクライアント側にも必要だと私は思います。ある程度大きな案件は、多少コストがかかってもセカンドオピニオンを得ることは自分を守るためにも必要ではないでしょうか。
私自身もセカンドオピニオンを求められる場面はあったりします。もちろん、目的は、顧問の税理士さんをこきおろしたり、揚げ足を取ることではありません。ユーザーさんの幸せが第一だと思うのです。
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一つの事象には、必ずいくつもの検討事項かあります。
一般的には
① A案
② B案
③ C案
④ A~C案を選択しない案
⑤ A~C案を複数選択する案
という具合です。
私の肌感覚ですが、企業の一つの決め事には少なくとも2~3の選択肢、平均的には6程度の選択肢は必ずあると思います。
その選択肢のうち、選ばれた事象の積み重ねが企業活動です。
消費者の選択肢だってそうでしょう。
① お昼にカレーライスを食べる選択肢 メリット・デメリット
② お昼に冷やし中華を食べる選択肢 メリット・デメリット
③ 昼食は抜く選択肢 メリット・デメリット
という感じです。
会計事務所が受ける税務相談も同じです。
お客様の依頼を受け、いくつかのシミュレーションを基に複数の選択肢とメリット・デメリットを説明します。
説明と言ってもお客様が理解できなければ意味がありませんから、ご理解いただくまでそれぞれのメリットを説明します。
会計事務所が関わるお金にまつわることについては少なくとも4つの要素の視点が必ず必要だと私個人は考えています。
それは、
①ビジネスに与える影響
②会計・税務に与える影響
③法律(民事、公法)に関わる事項(これらは通常、弁護士さん・司法書士さんなどのジャンルです)
④感情面
です。
物事には必ず複数の選択肢があり、それぞれの選択肢のメリット・デメリットを理解し、比較することが必要にもなります。
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例えば、DES(債権の株式化)にも次のような課税上の論点があります。
(あくまでも税務だけの論点です。)
・ 第三者割当増資の論点 ・・・ 特に贈与税
[関連記事] [贈与税] ウッカリ!?第三者割当増資で贈与税が発生するケース 2012年12月19日
・ 法人税の債務消滅益課税
[関連記事] 架空増資と公正証書原本不実記載等罪 2014年04月29日
(DESによる債務消滅課税の概要と、私自身の疑問も書いています。個人的な大いなる疑問は法人税法22条の改正がなされていない点です。)
・ 現物出資をする株主側の課税関係
個人株主 ・・・ 所得税(譲渡所得等の課税(出資した財産により所得は異なる)、高額譲渡、低額譲渡などの論点。
また、オーナー側の債権譲渡損は原則として雑所得の損失であるため損益通算 不可)
法人株主 ・・・ 法人税(譲渡益課税、適格組織再編など)
・ 資本金(及び資本金等)の額に関する論点
外形標準課税 (事業税)
均等割 などの税率(住民税。特に複数の自治体にまたがる場合は均等割の負担も一斉に上がるので注意)
交際費課税、寄附金課税などへの影響(法人税)
株式評価額への影響(贈与税・相続税)
・ 手続きコストの論点
登録免許税
仮に新株発行に伴い増加した資本金を減少させる場合は、債権者保護手続きや減資の手数料等
などなど。(もっとあると思います。パッと思いつくものだけ書きました。)
税務だけでもこれ以上の論点がありますが、他にも会社法上の論点(財産価格証明、会社法監査)などもあるので注意が必要です。
試験ならば特定範囲・特定ジャンルの解答だけで済むのですが、リアルな実務はそういうわけにはいきません。
案件によっては、弁護士、司法書士、公認会計士、税理士などへの問い合わせが必要になるでしょう。
実務では、パーフェクトに仕上がって、初めて目的が達成されるからです。(少なくとも顧客のオーダーはそうであるはずです。)
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下記は関連条文等です。ご興味のある方のみお読みください。
財産評価基本通達
https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka/08/08.htm#a-204
(貸付金債権の評価)
204 貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金、その他これらに類するもの(以下「貸付金債権等」という。)の価額は、次に掲げる元本の価額と利息の価額との合計額によって評価する。
(1) 貸付金債権等の元本の価額は、その返済されるべき金額
(2) 貸付金債権等に係る利息(208≪未収法定果実の評価≫に定める貸付金等の利子を除く。)の価額は、課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額
https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka/08/02.htm#a-179
(取引相場のない株式の評価の原則)
179 前項により区分された大会社、中会社及び小会社の株式の価額は、それぞれ次による。
(1) 大会社の株式の価額は、類似業種比準価額によって評価する。ただし、納税義務者の選択により、1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)によって評価することができる。
(2) 中会社の株式の価額は、次の算式により計算した金額によって評価する。ただし、納税義務者の選択により、算式中の類似業種比準価額を1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)によって計算することができる。
類似業種比準価額×L+1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)×(1-L)
上の算式中の「L」(省略)
(3) 小会社の株式の価額は、1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)によって評価する。ただし、納税義務者の選択により、Lを0.50として(2)の算式により計算した金額によって評価することができる。
法人税法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S40/S40HO034.html
(会社更生等による債務免除等があつた場合の欠損金の損金算入)
第五十九条 内国法人について更生手続開始の決定があつた場合において、その内国法人が次の各号に掲げる場合に該当するときは、その該当することとなつた日の属する事業年度(以下この項において「適用年度」という。)前の各事業年度において生じた欠損金額(連結事業年度において生じた第八十一条の十八第一項(連結法人税の個別帰属額の計算)に規定する個別欠損金額(当該連結事業年度に連結欠損金額が生じた場合には、当該連結欠損金額のうち当該内国法人に帰せられる金額を加算した金額)を含む。)で政令で定めるものに相当する金額のうち当該各号に定める金額の合計額に達するまでの金額は、当該適用年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
一 当該更生手続開始の決定があつた時においてその内国法人に対し政令で定める債権を有する者(当該内国法人との間に連結完全支配関係がある連結法人を除く。)から当該債権につき債務の免除を受けた場合(当該債権が債務の免除以外の事由により消滅した場合でその消滅した債務に係る利益の額が生ずるときを含む。) その債務の免除を受けた金額(当該利益の額を含む。)
二 当該更生手続開始の決定があつたことに伴いその内国法人の役員等(役員若しくは株主等である者又はこれらであつた者をいい、当該内国法人との間に連結完全支配関係がある連結法人を除く。次項第二号において同じ。)から金銭その他の資産の贈与を受けた場合 その贈与を受けた金銭の額及び金銭以外の資産の価額
三 第二十五条第二項(会社更生法 又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律 の規定に従つて行う評価換えに係る部分に限る。以下この号において同じ。)(資産の評価益の益金不算入等)に規定する評価換えをした場合 同項の規定により当該適用年度の所得の金額の計算上益金の額に算入される金額(第三十三条第三項(資産の評価損の損金不算入等)の規定により当該適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される金額がある場合には、当該益金の額に算入される金額から当該損金の額に算入される金額を控除した金額)
2 内国法人について再生手続開始の決定があつたことその他これに準ずる政令で定める事実が生じた場合において、その内国法人が次の各号に掲げる場合に該当するときは、その該当することとなつた日の属する事業年度(第三号に掲げる場合に該当する場合には、その該当することとなつた事業年度。以下この項において「適用年度」という。)前の各事業年度において生じた欠損金額(連結事業年度において生じた第八十一条の十八第一項に規定する個別欠損金額(当該連結事業年度に連結欠損金額が生じた場合には、当該連結欠損金額のうち当該内国法人に帰せられる金額を加算した金額)を含む。)で政令で定めるものに相当する金額のうち当該各号に定める金額の合計額(当該合計額がこの項及び第六十二条の五第五項(現物分配による資産の譲渡)(第三号に掲げる場合に該当する場合には、第五十七条第一項(青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し)及び前条第一項、この項並びに第六十二条の五第五項)の規定を適用しないものとして計算した場合における当該適用年度の所得の金額を超える場合には、その超える部分の金額を控除した金額)に達するまでの金額は、当該適用年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
一 これらの事実の生じた時においてその内国法人に対し政令で定める債権を有する者(当該内国法人との間に連結完全支配関係がある連結法人を除く。)から当該債権につき債務の免除を受けた場合(当該債権が債務の免除以外の事由により消滅した場合でその消滅した債務に係る利益の額が生ずるときを含む。) その債務の免除を受けた金額(当該利益の額を含む。)
二 これらの事実が生じたことに伴いその内国法人の役員等から金銭その他の資産の贈与を受けた場合 その贈与を受けた金銭の額及び金銭以外の資産の価額
三 第二十五条第三項又は第三十三条第四項の規定の適用を受ける場合 第二十五条第三項の規定により当該適用年度の所得の金額の計算上益金の額に算入される金額から第三十三条第四項の規定により当該適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される金額を減算した金額
3 内国法人が解散した場合において、残余財産がないと見込まれるときは、その清算中に終了する事業年度(前二項の規定の適用を受ける事業年度を除く。以下この項において「適用年度」という。)前の各事業年度において生じた欠損金額(連結事業年度において生じた第八十一条の十八第一項に規定する個別欠損金額(当該連結事業年度に連結欠損金額が生じた場合には、当該連結欠損金額のうち当該内国法人に帰せられる金額を加算した金額)を含む。)を基礎として政令で定めるところにより計算した金額に相当する金額(当該相当する金額がこの項及び第六十二条の五第五項の規定を適用しないものとして計算した場合における当該適用年度の所得の金額を超える場合には、その超える部分の金額を控除した金額)は、当該適用年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
4 前三項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書にこれらの規定により損金の額に算入される金額の計算に関する明細を記載した書類及び更生手続開始の決定があつたこと若しくは再生手続開始の決定があつたこと若しくは第二項に規定する政令で定める事実が生じたことを証する書類又は残余財産がないと見込まれることを説明する書類その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。
5 税務署長は、前項に規定する財務省令で定める書類の添付がない確定申告書、修正申告書又は更正請求書の提出があつた場合においても、その書類の添付がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは、第一項から第三項までの規定を適用することができる。