オリンパスの企業価値の損耗を防ぐために | 早川忠孝の一念発起・日々新たなり 通称「早川学校」

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弁護士・元衆議院議員としてあらゆる社会事象について思いの丈を披歴しております。若い方々の羅針盤の一つにでもなればいいと思っておりましたが、もう一歩踏み出すことにしました。新しい世界を作るために、若い人たちとの競争に参加します。猪突猛進、暴走ゴメン。

オリンパスの問題が日本の企業統治全体に対する信頼の喪失に繋がらないようにしたいと思っている。

金融庁や東証がオリンパスの監査を引き受けている新日本監査法人や2009年3月期まで監査を担当していたあずさ監査法人(旧朝日監査法人)の関係者からの聞き取り調査に入るのは当然だし、また警視庁がオリンパスに対して資料提供を求めているのも当然である。

しかし、パニックに陥る必要はない。
既に相当程度の損失処理は終わっていることで、現時点でのオリンパスの財務内容に特段の不安はなさそうである。
株価が急落したようだが、慌てると損するはずだ。
得をする必要はないが、慌てて損をする必要はない。

私はオリンパスに対して何らの利害関係も持っていないが、長年企業の顧問弁護士を務めてきた経験から気がついたことを述べている。

現時点では様々なメディアがオリンパスの問題を取り上げ、一気にオリンパスバッシングに走りそうな空気が醸成されようとしているが、あえて、おっとー、待ったあー、と声を上げておく。

オリンパスを寄ってたかって叩き潰したり、不用意に解体などさせないようにしなければならない。
何としてもオリンパスの企業価値のこれ以上の損耗は防がなければならない。
私は、そう思っている。

現在判明しているのは、飛ばし損失補填のための、違法不当な企業買収やコンサル事務所等への高額報酬の支払いである。
オリンパスの保有する有価証券の評価損、売却損の補填のための支出だということになると、これが直ちに違法だということにはならない可能性がある。
不適切な行為であり、いずれかの時点で一連の行為が金融商品取引法上の有価証券報告書などの虚偽記載に該当すると認定される虞は濃厚だが、現段階では断定するのはまだ早い。

読売は、「オリンパスなどの発表によると、同社は1990年代に多額の有価証券投資を行い、バブル崩壊の影響で多額の含み損を抱えた。その後、含み損が1000億円近くまで膨らんだが、損失の計上を先送りした。」と書いている。
また、産経は、「有価証券投資などについて国内では、13年3月決算から一部の金融商品について含み損も計上しなければならない「時価会計制度」が導入されたが、オリンパスは決算で損失を計上せず、「飛ばし」を実行した。関係者は取材に対し、「時価会計制度が導入された段階で、500億円規模の含み損を抱えていた」と証言しており、処理を先送りした結果、相場の値下がりや損失を取り戻すための投資で、損失額が500億円規模から1000億円超に倍増したとみられる。」と書いている。

多分間違いがないと思う。
そうなると、有価証券投資の損失飛ばしは10年以上前の行為であり、しかもその当時は明白な違法行為とまでは認識されていなかった、ということになる。

問題となるのは、2008年2月の英医療機器会社ジャイラスや国内会社の高額買収や助言会社に対する異常な報酬の支払いである。
これは外形上は明らかに特別背任にあたるが、これが実質的に有価証券投資による損失の補填であるとしたら違法性の評価が随分変わってくる。

有価証券報告書の虚偽記載が問題になってくるが、何が虚偽記載にあたるかを慎重に見極める必要がありそうだ。

飛ばしそのものが適法に処理されていたのだったら、その後の有価証券報告書で過去の飛ばしの事実を書かなかったとしても違法ではないだろう。
違法性がありそうなのは、飛ばした損失についてオリンパスが補填を約束していた、という裏保証ないし裏保証債務の開示義務違反だろうか。

かなり難しい法律問題がありそうである。

こういうことを仔細に考えていくと、今の段階でパニックになることはない。
ぐっと腰を落ち着けて、オリンパスの企業価値をこれ以上損耗させないように知恵を絞るべきだ、ということになる。
おそらく20年以上前の損失飛ばしは著しく不適切だったが、直ちには違法ではない、と判断される類のものだったのではないか。
勿論明らかな違法行為や犯罪は見逃してはならないが、高度の経営判断に係る部分については軽々にその当不当や違法適法を語れない。

株主や消費者の立場から見れば納得しがたいことも多いだろうが、企業経営に係る様々な問題に関わったことのある弁護士としての愚にもつかない、しかし経営者にとってはそれなりに意味のある感想だと受け取ってもらえれば幸いだ。