江田五月氏の法務大臣就任について唯一懸念があったのは、死刑廃止問題である。
一国会議員として死刑廃止問題に取り組むのはいいが、法務司法行政の長である法務大臣に就任するときは自分の個人的主張を封印して法務大臣の職責を果たすことに専念べきである、万一それが出来ないときは法務大臣への就任は絶対にお断りすべきである、というのが、私の考えである。
江田氏が死刑廃止問題の先頭に立ってきたことは分かっている。
死刑廃止の国民世論を背中に受けてまさに国民の世論に背中を押されるようにして江田氏が総理大臣に就任したのであれば、内閣として堂々と死刑廃止法案を提案すればよい。
しかし、現在の国民の世論の約80パーセントは死刑存置論である。
江田氏は、菅内閣において死刑廃止問題を提起するために法務大臣への就任を求められたわけではない。
あくまで、現下の法務行政を的確に前へ進めることが出来る国会議員として法務大臣に選任されたはずである。
国会議員の中で死刑廃止を求める声は少数であり、死刑廃止立法は不可能と思われる状況で、法務大臣が突出して死刑廃止を持ち出すと、結局法務大臣が自分の個人的心情に基づいて現行法の規定に背いて死刑の執行をしない、ということにもなる。
問題提起はどういう立場であっても許されるが、法務大臣が法の執行を躊躇し死刑制度の恣意的な運用の先鞭をつけるというのは、やはり許されることではない。
江田法務大臣の任期は事実上衆議院の解散総選挙が行われるまで、と見定めて、限られた時間の中で最大の成果を収められるようにして欲しい。
あと半年しかない。
これが私の見立てである。
今急ぐべきなのは、何と言っても取調べの可視化問題と検察庁の改革、さらには司法修習生の有給制度存続を含めた法曹養成制度の見直し等である。
これらは、いずれも司法改革の成果を堅持しながら、しかし現実に生じている様々な不具合の是正を図るという大事な仕事である。
民主党の中で法務部門の責任者として一貫して司法改革路線を推進してきた江田氏でなければ差配が難しい案件がまさにゴロゴロしている。
そういう意味では、法務大臣には最適任者の江田氏だ。
その江田氏が、これからの日本にとって難しい国際的な政治課題になるはずの死刑廃止問題を取り上げ、大きな渦の中に巻き込まれて息も出来なくなるようなことになるのは困る。
法務大臣に就任した以上、ご自分のライフワークである死刑廃止問題は当分棚上げされるべきである。
それが責任ある立場にある政治家として賢明な態度だと思う。
冤罪防止のための取調べの全面的可視化は、政治のリーダーシップがあれば実現可能である。
3月末までに法務省としての一応の結論を出すことにしたらいい。
そのうえで4月から6月まで各方面から意見を募集し、7月に提言を取りまとめればいい。
今度の衆議院選挙は、刑事司法の改革のあり方が一つの大きな争点になるはずである。
江田氏には是非そういった大局観に立って、少し軌道修正をしていただきたいものだ。