電車での仁義なき戦い① | シャアに恋して ~デスラー総統のロマン航路~
諸君、ご壮健かな。


私はトレインに乗っていた。

その日のトレインは。
激混みでもなく、すいてもいない。
そう、いわば。

ちょうどいい。

混んでいれば圧迫感で息苦しく。
空いていればお腹がコトコトしてくる。

快適空間をありがとう旧国鉄。


私はひとつの座席に座る。
ふうっと息をついて前を向く。

むう。

わたしは向かいに座る男に興味がわく。
刈り上げられた頭。
岩のような肌質。
鋭い眼光。

完全に本物だ。

その男。
さっと立ち上がる。
そして、無言で近くの老婆に席を譲る。

「ありがとう…ございます…。」

聞こえるかどうかの声で。
老婆はお礼をいって、ゆっくりと座った。

萌えだ!
これは完全体の萌え。

萌えとは落差にしか生まれない。
その私の定説が証明された貴重な瞬間だ。

あたたかい。

綾波レイの気持ちが今ならわかる。
ほんわか。

嗚呼、一歩早く譲れなかった自分が恥ずかしい。


そんなときに、現れたトンチキな男。
途中の駅で停車し、ドカドカとのりこんでくる。

年のころは二十歳くらい。
革の上下を針金みたいな体にピタッとはりつけて。

周りににらみを利かせながら入ってくる。

そして例の男の背後にたつと。
(つまり私の目の前。)
背中に時折当たる、刈り上げの本物(以後、刈本)の方をちらっと見る。

そしてあろうことかその細い男(以下、細男)は舌打ちをしている。

いけない細男!

後ろにいる刈本に触れてはいけない!
奴はアンタッチャブルだ!
触れたら死ぬで、怪人21面相。

わたしは息を飲んで、後ろを見る細男の横顔を見つめた。




(つづく)