諸君、ご壮健かな。
さて続きだ。
老紳士に聞きたいことがひらめいた。
私は襟元をただし、カマキリのような老紳士に向き直る。
「あの。」
「なにかな?」
揺るがない。
経験を重ねた年輪に、私は圧倒され始める。
オーラがすごい。
きっと大魔王バラモスを前にした勇者は、こんな思いなのだろう。
私は果敢に立ち向かう。
「漢方薬について教えてください。」
「ああ、いいとも。」
ニカッと前歯なく笑うその顔に。
私は魅せられ始めている。
「健康の秘訣はなんですか?」
「おお、それはなあ。」
よかった。
私は心の底から安堵した。
こんなトレッシングペーパーのような。
薄々の質問に怒るかと思ったのだ。
さすがは人生の先達だ。
「はい。」
「健康の基本は・・・。」
固唾を飲む。
「腹を冷やさないことだ。」
!!!
はら?
H・A・R・A?
原???
なんと…!
漢方薬が秘訣ではないのか!?
専門はそっちといったはずだ?
私は試されてるのか?
やはり薄々なことに薄々気がついているのだろうか?
かつてメジャーリーグに、野茂英雄というジャパニーズピッチャーがいたという。
その落差のあるフォークボールに、なみいる強打者は切りきりまいだった。
い・か・ん!
くじけてはいけない。
漢方薬に戻そう!
ニッポンに帰ろう!
なんか質問はないか?
頭の中を様々なものがめぐる。
漢方。
漢方、漢方、漢方。
漢方!田中邦衛。
よし。
持ち直した。
踏み出そう。
「やむなく、付き合いで冷たいものを飲まなければいけないときは?」
「おお、それはのう。」
きた。
この反応は行ける。
私の目は、あの赤い彗星のごとく煌めく。
きっとこの老紳士は!
魔法の漢方薬を指南してくれるだろう。
老紳士の食べかすで汚れた口の動きを見つめる。
すると。
「ほどほどにすればいい。」
・・・。
戦いは終わった。
私はこの戦いを通じて。
自分の無力さを思い知った。
そして。
このあと老紳士との会話が途切れたこと。
お酒はほどほどに出来なかったのは、言うまでもない。
おしまい。
(過去の仁義なき戦い)
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