実は、イオリア計画については随分前にで、結局イオリアは何を計画したのか?という記事に書いた。その時に書いた個人的な意見等は、今もそんなに変わらないので今さら書き直すことはあまりない。ただ、ここまで劇場版ガンダム00について一通り順番に書き終えた感じになっているので、やっぱりそのエピローグに登場した若き日のイオリア・シュヘンベルグと、イオリアが考えた計画に触れることを書いておこうかと思う。

何度も書いてるが、イオリアは劇場版のエピローグでこう語っている。

「私が嫌悪しているのは、知性を間違って使い、思い込みや先入観に囚われ、真実を見失う者達だ。それらが誤解を呼び、不和を呼び…争いを生む。わかり合わせたいのだよ、私は。人類は知性を正しく用い、進化しなければならない。そうしなければ、宇宙へ…大いなる世界へ旅立っても、新たな火種を生むことになる…それは悲しいことだよ」

イオリアの言い草は、少々上から目線で人類を見下した部分も感じられ、他人を自分よりも愚かな存在として見ているフシも感じられる。が、彼が本質的に望んでいることは、人々をわかり合わせ争いを無くしたいということなのは間違いない。これは何も急にイオリアだけが考え付いたことではなく、古今東西世界中の多くの人々が常々願い続けてきたことだと言える。大勢の人間が長きに渡って願い続けてきたはずなのに、いまだに叶っていないことだったわけだ。戦争好きの人間はごく一部しかいないはずなのに、いつまで経っても戦争は無くならない。そろそろいい加減、どうにかしたいとイオリアは本気で考えたわけだ。

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戦争にも色んな種類や規模があり、世界大戦的なものもあれば、小国の内部紛争もある。当然のようにそれらの戦争の原因も各々に色々あるが、国家間の争いの元凶を突き詰めて行くと、領土やエネルギー、資源、経済的利権等々の奪い合いに端を発するものが少なくない。要は、限りあるモノを互いに奪い合うことで争いになる場合は多いのだ。

特に、領土とエネルギー。この問題は人類にとって意外と大きな問題だ。実は国家という組織は、領土とそこに属する国民で構成され、それらを統治する権力も含めた三要素が基本になっている。勿論領土だけでなく領空や領海もあるけれど、それらは領土があってこそ、その周辺の海や上空が意味を成す。領土無しで領海や領空だけの国は無い。そして、領土の広さこそが、大国と小国の差を生むとも言える。だから、昔から人間達は自国の領土を広げようと縄張り争いを繰り広げてきた。広大な領土を持つことは、様々な意味で国力を高めることになるからだ。国が豊かに栄えれば人口も増える。人口が増えれば更に広い土地も必要になる。

そして、大勢の人間が豊かに暮らすには、エネルギー資源が必要になる。エネルギーは人々の日常生活は勿論、生産力や軍事力にも必要で、経済活動全般にも必要不可欠の物となる。エネルギーの確保は絶対に必要なことであり、それをより多く確保して独占することは、大きな力を保有するに等しい。そして、そのエネルギーの奪い合いが戦争の火種にもなる。エネルギー資源が埋蔵されている土地があれば、その領土権を争う者が現れる。

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イオリアが世界に向けて提唱したものに、軌道エレベーターと宇宙での太陽光発電システムがある。それを具体的に実現する為の基礎理論や技術的ノウハウ(新素材等の発明品)も含めて提案したものと思われる。

実はこの事が、イオリア計画の前段階であったと考えられる。何故ならば、軌道エレベーターによって人類の宇宙進出が加速すると、将来的には地球上の限られた土地(領土)を戦争で奪い合う必要性が減るからだ。当たり前のことだが、地球上の地面の面積には限りがある。領土を広げるには他国の土地を奪うか、自国の領海を埋め立てるぐらいしか手段がない。まぁ地下を掘って居住可能なように開発するという手段もあるが、掘り下げられる地下にも限界がある。しかし、宇宙にはまだまだ未開の地があり、また、スペースコロニー等の建設が進めば、宇宙空間に新たな領土を人工的にいくらでも作り出すことが出来る。他人から無理矢理奪い取らなくても済ませられるのだ。

また、宇宙での太陽光発電システムは、地上の太陽光発電パネル等に比べて圧倒的に効率的な大発電を可能とする。地球上空をぐるりと一周するような巨大なオービタルリングに発電パネルを設置し、そこで大気や気候に邪魔されずに太陽光を電力に変換出来れば、それは世界中の消費エネルギーを賄って余りある無尽蔵とも言える電力になる。膨大なエネルギーが安定して得られるようになれば、これまでの人類が苦労してきたエネルギー問題は一気に解決することになる。エネルギー資源を奪い合う戦争も必要なくなってくる。

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まぁ、これだけで人類が戦争を一切しなくなるわけじゃないが、とりあえず普遍的な戦争の原因となってきた、領土問題とエネルギー問題に一応の解決の道筋をつけられることにはなるはずだ。

また、軌道エレベーターや太陽光発電システムの施設建設等の壮大な公共事業が、様々な産業に特需をもたらすことも考えられる。これらのプロジェクトには膨大な資金が必要で、その負担は国民にも向けられ増税等もあったかも知れない。しかし、これだけの大事業となると労働力も相当に必要となるわけで、かなりの雇用需要も生まれることになる。仕事内容は楽ではないかも知れないが、大きな金の動く事業であるだけに、様々な分野で人手が必要だったはずだ。これにより失業問題にも好転が起き、世界経済の景気回復も見込める可能性が高いだろう。

産業が活性化し、好景気となって人々の生活が潤えば、これも紛争の火種が減ることに繋がる。まぁ、世界が大きく変化すれば、そこにはメリットだけじゃなくデメリットも生じるわけで、万事が良いコト尽くめにはならないだろうけど。解決する問題もある代わりに、これまでにない新たな問題が発生する可能性も十分に高い。経済が潤えば余計な野心や欲望を抱く者も現れるわけで、そこに新たな争いが起こる場合もある。

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実際問題、ガンダム00における西暦2300年代に至っても、太陽光発電紛争などといった世界的な大戦が勃発している。エネルギー問題を解決する為の事業でも、その煽りを受けて不利益を被る石油産出国などの反発があったわけだ。人類全体にとって長い目で見れば素晴らしい方向性であっても、直近の短期においては一部の人々にしわ寄せが来ることはよくある。それが新たな戦争の火種となる場合もある。

イオリアが提唱した軌道エレベーターによる太陽光発電システムだけでは、戦争根絶には至れない。とりあえずの問題に対する解決策を作っても、今度は他の問題が生じるから。それがわかっていたからこそ、イオリアは人類に対する劇薬も用意したのだろう。それが私設武装組織ソレスタルビーイング。イオリアが世界には提供しなかった革新的なテクノロジーと、イオリアの理念に賛同する選ばれし人間による壮大な改革プロジェクト。

人類が延々と抱え続けてきた問題を、解決に導くことを目的とした計画と組織。例え大きな痛みを伴っても、人類を革新に導かねばならない…そんな思いを込めた数百年にも及ぶイオリア計画の始まり。