劇場版(2314年)の序盤にコロニー公社の一件で、刹那はマリナ達を守る形での武力介入ミッションを遂行した。しかしこの時の刹那は、ライルから「挨拶しなくていいのかい?」と促されたにも関わらず、「その必要を感じない」と素っ気無く答えて顔を合わせることもなく去ってしまった。刹那はマリナとの再会の約束を忘れてしまったのか?マリナに対する関心を失ってしまったのか?

恐らく…ではあるが、刹那はマリナへの思いはずっと変わってないだろう。しかし、今はまだ会うべき時じゃないと思ったんだろう。マリナと二人きりじゃなくて、他にもシーリンとかライルとかその他の付き添いもいたからその気になれなかったというのもあったと思う。が、それ以上に刹那もマリナもまだ志半ばの状態で、自分達“それぞれの戦い”は、まだまだ終ってないという思いもあったんだろう。刹那が2ndシーズン第15話「反抗の凱歌」の中でマリナに言った「今度会った時」という約束の日は、自分達の戦いが終って、求めるもの(戦争のない平和な世界)にたどり着いた時を意味していたつもりなのかも知れない。

当時はそのつもりで言ってなくても、その後の刹那は多分そのつもりなのだろう。

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マリナの顔が見れれば嬉しいという思いはある。自分の元気な姿をマリナに見せられれば、マリナが安心して喜ぶであろうこともわかっている。しかし、中途半端な状態で会ってしまえば、自分にもマリナにも甘えみたいなものが出て、決意が揺らぐような気がしたのかも?また、この2314年当時のCBは、活動自体を完全に隠さねばならない状況だった。刹那個人の思いだけで、マリナに会えば機密が破れる可能性がある。また、CBとマリナが接触していたと誰かに漏れれば、またマリナの立場が危うくなったり、マリナの政治活動の妨げになる可能性も高い。一時の感傷を満たす為に、そのような事態を招くのは賢明じゃない。

だから刹那は、色んな意味で今はまだマリナに会うべきではないと判断し、今会って挨拶しなければならない必要性も感じないと言ったのだろう。顔を合わせなくても…何も言わなくても、マリナはマリナのすべきことをする。刹那は刹那のやるべきことをやる。そう信じていたとも言える気がする。そもそも刹那は馴れ合いみたいなものを好まないし、イノベイターになってからの刹那は少し心を閉ざし気味だったのも影響しただろう。

で、結局、刹那が全てをやり終えてマリナのもとに会いに行ったのは、半世紀以上も経った西暦2364年になってからだった。刹那が歌を聴かせてもらうはずだった子供達も、既に子供じゃなくなっていたわけだが…まぁ、刹那はヤエル達本人にこだわる気はないだろうから、マリナと一緒に別の子供が歌っても良いのだろうけど。

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刹那とマリナは直接顔を合わせはしなかったが、コロニー公社のGN-XⅢの襲撃からマリナ達を守ってくれたのが、刹那達CBであったことにマリナが気づいたのは間違いない。もしかしたらマリナの方は、顔ぐらい見せてくれてもいいのに!と刹那に対して思ったかも知れないが、まぁ、顔も出さずに立ち去るのも刹那らしいとも思ったのではないか。ただ、CBが人知れず活動を続けている事はハッキリしたわけで、刹那が自分を見守ってくれてることを感じて、少し心強く感じたのも確かだろう。それと同時に、刹那は今もやっぱり戦い続けていると、改めてその事実を確信もしたはずだ。

ELSに関する情報や、人類側のELSへの対応に関しては、マリナは地球連邦政府の発表やマスコミからの情報からしか知りようがなかったはずだ。連邦政府はCBの動向に関しては何か掴んでも一切公表せずにいたと考えられるし、マスコミはCBの動きを殆ど把握していなかった思われる。だから、刹那が粒子貯蔵タンク仕様のダブルオーライザーでELSとの対話を試みて失敗した事も、その際に脳にダメージを負って昏睡状態に陥ったことも、マリナは知る由もなかったはず。その後、木星から出現した超巨大ELSが地球圏に到達し、地球連邦軍の絶対防衛線で人類の命運を賭けた戦いが繰り広げられても、CBのガンダムがどのような形で参戦したかなどをマリナが具体的に知ることはなかった気がする。

でも、マリナは確信していたに違いない。地球の人々を救う為に刹那が何らかの戦いをしているはずだと。勿論、ここで言う戦いとは…これまでにも刹那が語ってきた“戦い”とは、必ずしも武力による戦闘だけとは限らない。刹那がこれまで沙慈やマリナ達に対して何度か「戦え!」と言っていたが、それは殺し合いの戦闘に加われという意味じゃなかった。刹那にとっての戦いは、自分の手で運命を切り拓くことであり、自分の行く手を阻むものに対して、簡単に諦めて引き下がらずに、逃げずに抵抗を試みて前進しろという意味だと思う。

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実際問題、刹那はELSとは殆ど戦闘はしなかった。一度も攻撃しなかったとは言わないが、少なくとも、戦わずに済ませようと戦闘を回避する努力をし続けた。しかし、それも含めて刹那にとっては戦いだ。人類が明日も生き残る為に、閉ざされかかっている未来をこじ開けてでも切り拓く為に、絶望的な状況の中でも諦めずに、刹那はELSとの対話を行おうと命懸けで戦っていた。

その詳しい経緯や状況をマリナは知らない。刹那が何をしようとしてるか誰もわからない。でも、何もわからなくても、マリナは刹那が宇宙のどこかで戦っているはずだと信じて疑うことは無かったと思う。マリナは刹那に何もしてあげられないが、刹那が自分を含む人類の未来の為に戦ってくれているはずだと確信していた。だから、マリナも自分に出来る事をしようとし続けた。宇宙に行ってELSをどうにかすることは出来なくても、今目の前にいるアザディスタン市民の為に自分が出来る事をやり続けようと。

そして、時々は空を見上げて、この空の向こうで戦っているであろう刹那に思いを馳せてたに違いない。どうか刹那が無事でありますようにと祈りながら。一刻も早くELSとの戦いが終るようにと。

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西暦2312年の大戦(2ndシーズン第24話「BEYOND」)でも、マリナは刹那の戦いを遠くから見守り、ダブルオーライザーのトランザムバーストの光を見て、「この光はきっと、刹那の戦いの光…命の輝き…」と感じ取っていた。そして今回も、ELSが集まって作り上げた宇宙に咲く花を地上から見上げながら、マリナは言葉はなかったが微笑んでいた。きっとそれが刹那のお陰だと、刹那の戦いの成果として、ELSとの停戦が実現したのだと感じていたに違いない。

刹那がELSと戦って相手を破壊する方法ではなく、何らかの形でわかり合うという方法を選び、それが実を結んでELSが宇宙に大きな花を咲かせたのだろうと。