アザディスタン王国皇女の座を退いて、花に囲まれた街外れの小さな家で静かな隠居生活を送るマリナ・イスマイール。ある日そこに一人の訪問者が現れた。「どなた…かしら?ごめんなさい、目が不自由でね。出来れば自己紹介してもらうと助かるわ…」と、突然の来訪者にマリナはそう語りかけた。


「マリナ・イスマイール」

そ、その声はま、まさか

「こんなにも…長く、時間が掛かってしまった」

「すれ違ってばかりいたから…」

「だが、求めていたものは同じだ…君が正しかった」

「あなたも間違ってなかった」


81歳の高齢となり、視力も失ってしまったマリナ。そして、ELSとの対話の為に地球を遠く離れ、ELSと融合して以前とは違う存在として生きる道を選んだ刹那。互いに半世紀前とは異なる姿となってしまったが、その事を気にする素振りもなかった。刹那は年月の経過を十分わかっていただろうし、マリナは刹那の姿が見えなかったから。いや、仮に目が見えていたとしても、マリナは肌の色が金属色に変わってしまった刹那でも、恐れずに受け入れたに違いないが。長年すれ違って来た二人だったが、遂に互いを認めて何の躊躇いもなく抱擁した。


俺達はわかり合うことが出来たんだ


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劇場版のエピローグにて、西暦2364年に刹那とマリナは再会を果たした。ざっくりと50年ぶりの再会と言われているが、実は刹那とマリナが最後に会ったのは2ndシーズン第15話「反抗の凱歌」で、サーシェスに撃たれて負傷した刹那がマリナの居るカタロン基地に転がり込んだ時が最後だった。なので、正確に言うと2312年以来の52年ぶりである。その後、劇場版の序盤でコロニー公社のGN-XⅢに襲撃されたマリナを刹那は助けたが、結局顔を合わせることも言葉を交わすこともなかったから。

刹那とマリナの精神的な絆は52年経っても風化することはなかったが、実は刹那とマリナって顔を合わせた回数は然程多くないし、共に過ごした時間もそんなに長くない。

刹那とマリナの初対面は、西暦2307年、1stシーズン第8話「無差別報復」での出来事だった。爆破テロの現場から立ち去る不審者を追跡していた刹那が警官からの尋問を受けていた際に、たまたま通りかかったマリナが同郷のよしみと思っって助け舟を出し、警官からの追求を免れた場面だ。刹那にアザディスタンの国情について語るマリナ。


そして話は武力による戦争根絶を掲げるCBにも及び、話し合いによる平和的解決を模索せず武力を行使するCBを狂信者の集団だと批判した。それを聞いて刹那は「話している間に人は死ぬ」と言い、「クルジスを滅ぼしたのはアザディスタンだ!」と憤る。マリナの言葉は戦場を知らぬ者の言う奇麗事に聞こえたのだろう。そして自分こそがCBのガンダムマイスターだと呆気なくバラし(守秘義務も何もねぇな)、「紛争が続くようならいずれアザディスタンにも向かう!」と突き放した。


また、直接顔を合わせたわけではないが、その第8話のラストではマリナの乗る旅客機のすぐ側を刹那の乗ったガンダムエクシアが思わせぶりに通過して飛び去るという場面もあった。


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その次に刹那とマリナが顔を合わせたのは、1stシーズン第13話「聖者の帰還」でのことだ。


マリナの故国アザディスタン王国で宗教的指導者マスード・ラフマディが何者かに拉致される事件が発生。それに端を発して内紛が勃発。CBがアザディスタンに武力介入を行った。内紛の沈静化の為に、CBはマスード・ラフマディの救出を行い、その身柄を王宮へと送り届けるミッションを刹那の乗るエクシアで行った。王宮には勿論、第一皇女マリナがいる。マスード・ラフマディを引き渡す際に、短時間ながらも刹那とマリナの再会があった。「刹那・F・セイエイ!本当に、本当にあなたなの?」と訪ねるマリナに対し、「マリナ・イスマイール、これから次第だ。俺達がまた来るかどうか。戦え、お前の信じる神の為に」と告げる刹那だった。


その次は少々驚きの展開だ。1stシーズン第14話「決意の朝」で刹那は大胆な行動に出る。ミッション前の合流地点への移動中であることをいいことに、刹那は独断で中東のアザディスタンに寄り道する。GN粒子のステルス効果を活かしての事だと思うが、なんと、刹那は夜中にアザディスタンの王宮に忍び込む夜這いを敢行。マリナの寝室に立ち寄って、ベッドに入っていたマリナに「なぜ、この世界は歪んでいる?神のせいか?人のせいか?」等という唐突な質問を投げかけた。刹那の無茶ブリにも嫌な顔をせずに、「神は平等よ。人だってわかり合える。でも、どうしようもなく世界は歪んでしまうの。だから私達、お互いのことを…」と律儀に答えるマリナ。しかし、既に刹那の姿は無く、その答えをちゃんと聞いたかどうだかわからん刹那だった。

その後1stシーズンでは、刹那とマリナは直接会うことはなかった。戦死したロックオン・ストラトスに宛ててフェルト・グレイスが手紙を書いたのに感化されてか、刹那もマリナに以下のようなメールを送りはした。が、1stシーズン中に刹那とマリナが会ったのは僅か三回だけで、時間もせいぜい長くても、合計数十分程度だったろうと思われる。


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【1stシーズン終了時の、刹那からマリナへのメール】


マリナ・イスマイール。
貴方がこれを読んでいる時、俺はもう、この世には…。


武力による戦争の根絶。

ソレスタルビーイングが、戦うことしか出来ない俺に、戦う意味を教えてくれた。

あの時の、ガンダムのように。


俺は知りたかった。

何故、世界はこうも歪んでいるのか。その歪みは、何処から来ているのか?
何故、人には無意識の悪意というものがあるのか?
何故、その悪意に気付こうとしないのか?
何故、人生すら狂わせる存在があるのか?
何故、人は支配し、支配されるのか?
何故、傷つけ合うのか?
なのに何故、人はこうも生きようとするのか。


俺は、求めていた。
貴方に会えば、答えてくれると考えた。
俺と違う道で、同じものを求める貴方なら、人と人が分かり合える道を。

その答えを。
俺は、求め続けていたんだ…。

ガンダムと共に。ガンダムと、共に…。