人類はイノベイターへの変革を始めはしたものの、その過渡期においては様々な問題が発生した。先にも書いたイノベイター(新人類)と反イノベイター派(旧人類)の対立は、長く醜い戦争へと発展してしまった。ただ、変化を恐れて流れに乗れない人々が抵抗を試みても、それでも人類の進化の流れは止まらなかったようだ。反イノベイター派がイノベイターを駆逐しようとしても、結局は50年後の西暦2364年には、人類の総人口の約4割をイノベイターが占めるようになったという。

逆に言えば、まだ6割程度は従来と変わらぬ人類が存在したということでもあるが、6:4の比率では、既にイノベイターは存在を無視出来るほどの少数派ではない。イノベイターが人口の過半数を占めるようになるにも時間の問題で、しかもそれに至る時間はそんなに長くもないはずだ。

このような多くの人類がイノベイターへと変革していくプロセス(過渡期)を、ELSも人類と共に見守って来た。偶然だとは思うが、イノベイターの出現とELSとの遭遇はタイミング的にはリンクしており、イノベイターの増加が始まる西暦2314年以降の人類は、ELSと共に時代を過ごして来たからだ。つまり、ELSは人類が新人類と旧人類に分かれて内部分裂し、醜い諍いを引き起こした事を、第三者としてリアルタイムで目撃していた事になる。

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では、ELSはイノベイターを廻る人類同士の戦いを、黙って見ていただけなのだろうか?醜い争いを繰り広げる人類に呆れて失望したり、戦いをやめさせる為に介入して仲裁に入ろうとはしなかったのだろうか?

劇場版ガンダム00に関する出版物やネット情報等の資料を見る限り、ELSは人類同士の戦いには基本的に介入しなかったらしい。ELSは人間同士の紛争には全く興味を引かれなかったのかも知れないし、そのような無駄な行為が理解すら出来なかった可能性もある。もしくは、自分達の立場を弁えている賢明なELSは、地球連邦に対する“内政不干渉”の立場を貫いたのかも知れない。

イノベイターと反イノベイター派の血みどろの戦いも、ELSの目には人間同士の痴話喧嘩のようにしか映らなかった可能性もある。それなりに長い歴史を持つELSという種族は、その歴史で学んだ記憶や叡智を種族共有の意識として継承している。そして、広大な宇宙を旅してきた経験を持つELSから見れば、人類のやってることは大した問題には感じなかったのかも知れない。「夫婦喧嘩は犬も食わない」ということわざがある。夫婦に限った話ではないが、所詮、身内同士の喧嘩は一時的でくだらない理由で起きているものであり、どうせすぐに終わるものだから、外部の者が仲裁等に入るのも無用でバカバカしいという意味だ。

ELSにとっては…そして、宇宙レベルの時間流や歴史の中では、地球上の数十年もそんなに大層な期間ではない。

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ELSからすれば、イノベイターの方が脳量子波感応能力を持っている分、話し相手としては便利でありがたい存在だ。しかし、ELSはあくまでも地球人類との友好関係を求めて共存共栄したいわけであり、人類同士の争いごとに口出しするのも無益だと判断した可能性がある。ELSからすれば、新人類も旧人類もどちらも地球人に変わりは無く、どちらかに特別な肩入れをする義理もない。むしろ、どちらか一方の手助けをしてしまえば、中立的な立場ではいられなくなり、別のもう一方からELSも敵視される事になる。そんな事になれば余計な混乱を招くだけだ。

ELSは、人類同士の争いごとには基本的に関与しない事を決め、積極的に参戦することもなく、無関心を装っていた可能性が高い。自分達が巻き込まれるのは御免だという意識もあっただろうし、人間同士が何をしようが、それは人類自身が解決すべき問題だと割り切っていたのかも知れない。

ELSが望んでいたことは、人類との互いに有益な情報交換や、共存共栄出来る友人を得ることであり、人類に干渉して余計な支配力や影響を及ぼすことではない。どんなに親しい友であっても、相手の家庭事情にまで口出しするのは余計なお節介だ。その辺を弁える節度と聡明さをELSは持っていたということだろう。その点では地球人類よりもELSの方が、精神的に成熟した種だと言えるかも知れない。