グラハムから「例え矛盾を孕んでも存在し続ける。それが、生きること」だと改めて諭された刹那は、この後積極的にではないが、自分を攻撃してくるELSに対しては反撃を行うようになっていた。戦闘行為は対話を求める自分の意志とは相反し、矛盾や齟齬があるとは思いながらも、自分がやられてしまっては対話のしようもないと思い直したのだろう。

しかし、ELSの数はあまりにも多く、MSや巡洋艦に擬態したELSからのビーム攻撃も激しさを増すばかり。思ったように前に進めないクアンタだった。このままではいたずらに時間を消費してしまうばかりだし、大量のELSに完全に包囲されてしまったら、それこそ身動きが取れなくなる。刹那はティエリアから、トランザムは対話の為の切り札だから今ここで使ってしまうわけにいかないと制止されていたのにも関わらず、トランザムを発動しGNソードVにソードビットを合体させて、バスターライフルをぶっ放した。

この行為は恐らくグラハムの言葉を受けた刹那だからこその決断だろう。ティエリアの方が冷静に判断しているように見えるが、ティエリアは先のことを慎重に考え過ぎる余り、今どうするべきかの打開策が見つけられていなかった。確かにトランザムを使えばGN粒子を大量に消費してしまう。しかし、現状を打破してELSの中枢に辿り着けなければ、GN粒子を温存していても使いようがないのも事実なのだ。クアンタはオリジナル太陽炉搭載機だ。そのツインドライヴなら消費した粒子は、そう長くは掛からずに再チャージ出来る。今は思い切った手を打たなければチャンスも生まれない。刹那は劇場版で最大にして最強の攻撃を決意する。

複数の巡洋艦を取り込んだ大型ELSの突進に対して、刹那はトランザムによるバスターライフルのビーム攻撃で身を守る。と共に、「このまま表面を切り裂く!」と、ライフルからの粒子ビームの奔流をライザーソードとして超大型ELSを切り裂きに行く。ELSの表面を切り開いて、中枢部への侵入口を作り出そうという試みだ。映画では言ってなかったが、小説版ではティエリアも「その手があったか!」と言っていたと記憶している。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

だが、超大型ELSは既に、外宇宙航行母艦ソレスタルビーイングの大型粒子砲のビームを受け流す術を学習していた。その為、クアンタの凄まじいビームも表面を切り裂いただけで深くは食い込めず、弾かれて受け流されてしまう。その切り裂かれた(ELSが自ら開いた?)裂け目もすぐに閉じ始めた。トランザムを使っても突破口を作れなかったかと失望しかけた時、その裂け目に向かって突き進む赤い光があった。

「未来への水先案内人は、このグラハム・エーカーが引き受けた!これは死ではない。人類が生きる為の…!」

グラハムの乗るブレイヴは、戦闘の最中ELSの接触を受けてしまっていた。既に侵蝕がコックピットにも到達していた。どの道助からない…という状況の中で、失われつつある自らの命を人類の未来に繋げようと考えたのだろう。ただ、ソルブレイヴスの部下達に“敢えて”言ったはずの自分が死ぬことが、心のどこかに引っ掛かったのかも知れない。だから「これは死ではない」と言い訳したかった面もあったかも?

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ところで、グラハムの乗るブレイヴ指揮官用機は、擬似GNドライヴを2基搭載した機体の為、この機体でのトランザム→オーバーロード自爆は、GN-X Ⅳなどシングルドライヴ機の自爆よりも約2倍は破壊力があったはずだと思われる場合が多い。だから、超巨大ELSに穴を開けることも出来たのだと。だが、この点には少々疑問がある。

実は、刹那に対して「生きる為に戦えと言ったのは、君のはずだ!」等と説得している際に、グラハム機はELSが放ったビーム攻撃を受けて右のバインダーが破損したと思われる描写がある。ブレイヴ指揮官用機のバインダーには擬似GNドライヴが搭載されているので、2基のうち1基の機能をこの時点で失ったように思えるのだ。右の擬似GNドライヴ部にビームを被弾後、そこから煙を吐き出しており、GN粒子の放出が停止して見える。そして、その後グラハムがGN-Xに擬態したELSに絡まれながら超大型ELSに突進した際の映像でも、粒子放出の軌跡が1本しかなかったように見えた。

そもそもグラハムがELSの接触を受けてしまった要因のひとつとしても、擬似GNドライヴを1基失って、攻撃力や機動性が万全ではなくなったからというのもあるのでは?刹那と話をする為にクアンタの前で機体を停止させていたことが仇となったのだとしたら、刹那が戦闘を躊躇っていた事がグラハムの死に結び付く間接要因だったと言えなくもない。

そして、擬似GNドライヴを内蔵する右バインダーを失った状態でのトランザム自爆だとすれば、グラハムの乗ったブレイヴ指揮官用機だからといって、爆発力が2倍強力だったとはいえない可能性がある。