地球連邦軍の絶対防衛線…ELSとの最終決戦の場に、一足遅れて到着したソルブレイヴス隊。ソルブレイヴスはELSとの戦闘は初めてではない。既に火星圏で一戦交えた経験がある。しかし、今度のELSは少し様子が違った。グラハム達の目の前で戦闘を繰り広げているELSの中には、モビルスーツに擬態したものも数多くいたからだ。そのELSの姿をモニター越しに確認した隊員からは動揺が感じられた。それに対して「うろたえるな!」とグラハムは一喝する。

「とはいえ、相手がガンダムタイプとは…」

グラハムの表情には、どこか嬉々とした笑みが感じられた。またガンダムが敵に回るのか!という因縁めいたものを感じたのかも知れない。

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さて、ここでグラハムの言った「ガンダムタイプ」とはどういう意味なのか?劇場版の映像を見る限り、ELSはGN-X Ⅳと巡洋艦には数多く擬態していたが、ガンダムらしき姿は確認出来なかった。ELSはこれまで確かに、ダブルオーライザーやラファエルガンダム、セラヴィーガンダムⅡとの接触経験はある。しかし、グラハムの上記セリフの場面の映像を隅々まで見ても、これらに擬態したELSは見当たらなかった。

実は、劇場版の当初の設定には、ダブルオーライザーに擬態したELSの登場も検討されていたらしい。また、コミックスなどでは実際に、ダブルオーやガデラーザに擬態したELSも登場している。もし、グラハムがこれらを見たのであれば、「相手がガンダムタイプとは…」という言い方も当然だ。だが、実際の映画の映像には、このセリフの明確な裏付けとなる場面が描かれていない。明らかにガンダムとわかる姿に擬態したELSが、グラハムの前に立ち塞がった描写はないのだ。

恐らくは…の話なのだが、グラハムの言う「ガンダムタイプ」とは、やっぱりGN-X Ⅳなのではないかとも考えられる。元々GN-Xシリーズの初期型は、アレハンドロ・コーナーとラグナ・ハーヴェイによって2307年当時の三国家群にもたらされている。三国家群の認識では、GN-Xはソレスタルビーイングの離反者から手に入れたGNドライヴ搭載型のMSなのだ。それはある意味、ガンダムと同系統のシリーズ機と見なしても良い機体だ。ガンダムと対抗する為のガンダムを手に入れた。それがGN-XというMSの素性とも言える。

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さらに言うならば、GN-Xシリーズの中でも劇場版で主力機となっていた『Ⅳ』は、頭部の造型が従来のI、Ⅱ、Ⅲとは若干異なっている。その額にはガンダムに似たV字のアンテナまで装着されており、よりガンダムに近づいたと言っても過言ではない。アロウズに配備されていたアヘッドなどは、世間のCB及びガンダムへの悪感情(テロリストとしての敵視や恐怖)に配慮して、ガンダムの面影を排除する方向性のデザインとなっていた。しかし、2314年となった今は、むしろアロウズこそが悪であり、CBへの敵視は薄れている。それを表すように、GN-X Ⅳの顔はガンダムに近くなったと言える。

同じ擬似太陽炉搭載型でも、ブレイヴは骨格フレームや変形機構等々、かなりユニオンやAEUの技術とデザインに寄っている。動力源となるGNドライヴやその周辺技術こそガンダム系統だが、それ以外はCB及びガンダムからの系譜からは外れたオリジナル機だと言っても良い。つまり、グラハムにとっては、ブレイヴはあくまでもGNドライブ搭載型フラッグであり、それに比べるとGN-Xシリーズは、ガンダムの流れを汲む「ガンダムタイプ」だという認識(区別)なのでは?そういえば、グラハムはこれまで、GN-X系には全く乗っていない。

グラハムにとっては、例えELSが擬態したモノであってもGN-Xタイプの敵機は、即ちガンダムタイプの対戦相手なのではないだろうか?本来ならこの時のグラハムにとっては、既にCBもガンダムも刹那も敵とは言えなくなっている。だから、今後はもうガンダムと敵対して戦うことはないと心の中で思っていたはずだ。長年ガンダムを追い続けていた身としては、それは少しだけ寂しい面もあったのかも知れない。しかし、目の前に敵として現れたELSの群れが、今はガンダムタイプのMSの姿をしている。

また、ガンダムが自分の敵として現れた。またガンダムと戦う機会を得た。そのガンダムタイプはCBでもなければ刹那が乗っているわけでもない。しかし、またしても…という因縁と宿命を感じずにはいられなかったような気がする。