劇場版ガンダム00の中で目立った行為の一つに、トランザムのオーバーロードによる自爆があったと思う。


一番最初にそれをやって見せたのは、なんとティエリア・アーデだった。刹那を助ける為に、自ら脳量子波を発してELSを引き付ける囮になったティエリア。そのティエリアの乗るラファエルガンダムがELSに接触されて取り込まれていく中で、ティエリアはトランザムを発動し一気にオーバーロードさせて自爆。周囲のELSを巻き添えにして散った。


この際ラファエルガンダムは、遠隔操作のセラヴィーⅡを刹那の救出に向かわせており分離状態だった。ラファエルは擬似太陽炉を3基持っていたが、それは全てセラヴィーⅡ側に搭載されており、分離状態ではラファエル本体側はGN粒子貯蔵タンクで稼動している。オーバーロードによる自爆は、ラファエル本体とセラヴィーⅡ両方で起きていた。となると、自爆は厳密に言うと擬似太陽炉ならではの暴走によるものではないということになる。擬似太陽炉が無い方の機体も自爆したのだから。


その後も、別にティエリアのマネをしたわけでもないだろうに、地球連邦軍の擬似太陽炉搭載型MSが、まるで当たり前のように何機もトランザム自爆を敢行する。アンドレイ・スミルノフのGN-X Ⅳも然り、パトリック・コーラサワー(マネキン)も「こいつだけでも道連れにして!」と自爆を行おうとしていた(未遂で終ったが)。グラハム・エーカーもELSにまとわりつかれながら、「未来への水先案内人はこのグラハム・エーカーが引き受けた!」とトランザムを臨界点突破状態に…。


何というか、擬似太陽炉搭載型の最新鋭MSには、自爆装置が“標準装備”となっているかのようだった。自爆機能が標準なんて尋常じゃない。連邦軍では、自爆の仕方をパイロットに教えて、イザとなったら自爆せよと推奨しているのだろうか?な~んて思ってしまう。それぐらい、まるでフツーの手続きのようにやってるように見えたから。実際は…どうなんでしょ?


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自爆装置(自己破壊装置)は確かにあり得ないモノでもない。主な目的としては、機密保持や証拠隠滅、盗難防止(盗まれる位なら壊して使えなくする)などがあり、またイザというときの脱出や安全確保の為に、装置や機体の一部を破壊する場合などもある。また、特攻の際に敵へのダメージを大きくする為に、自爆する場合もあるだろう。しかし、西暦2314年の宥和政策体制下の連邦軍において、兵士の人権や生命を軽視した意味の(特攻前提などの)自爆装置は似合わない気がする。


また、擬似太陽炉やトランザムには暴走による破壊の危険性があるのだとしたら、暴走させないようにするリミッター等の安全回路があるはずだ。そうでないと戦闘で興奮状態になり冷静さを失ったパイロットが、うっかり暴走させて自爆してしまう可能性が高まる。そんなアブナイ機体が量産機として普及するなんて考えられん。では、今回はその安全回路をパイロットが自ら解除した…というのはあり得なくは無いが、それにしても『トランザム発動!→出力レバー押し込み一発!→即自爆!』…といったイメージで簡単にオーバーロード自爆を起こしたように見えた。安全回路は、通常は命の守る為の重要な装置となるはずなので、簡単にワンタッチレベルで解除出来ないように設計されているのが本来のはず。その割には、な~んか呆気なく自爆出来るようになってたような…。そんなことでいいのか?連邦軍のMS開発技術者よ?


もしかすると…の話だが、通常は簡単に自爆しないようになっているのだが、今回のELSとの決戦に限定して自爆もアリとされていたのかな?とも思う。ELSに取り込まれて全身を侵蝕される苦痛を味わった上で死ぬぐらいなら、潔く自爆して死にたいという意見がパイロット側から自発的に提案された可能性もある?ELSに機体が取り込まれて同化された場合、その同化された機体はELSと化してしまうはず。つまり同化された兵も機体も、その後はELSとなって人類の脅威の一部となってしまうわけだ。地球と人類を守る為に命懸けで戦うのに、それは兵士本人としても不本意で屈辱的なことだろう。だったら自ら命を絶ってでも、自分に取り付いたELSを道連れにして、少しでも敵を減らせた方がいい。そういう意見が出たとしてもおかしくはない。


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今回の戦闘は、人類の存亡を賭けた戦いである。どんな戦争でも基本的には同じだが、今度のELSとの戦いは激戦となることが予想され、いつも以上に戦場に赴く者達の命の保証がないものとなる。しかもELSに侵蝕されながらの死は壮絶だ。ならばせめて、兵士達に自分の死に方を選択出来るように配慮する…そんなこともあり得ないことではない。自爆を軍が強要するわけじゃないが、本人の希望があれば、リミッターの解除措置を今回に限って実施する。それで自爆するかどうかは本人の自由意思に任せると。


例えば、軍にも労働組合的な団体があって、そこを通じて軍の上層部との交渉や調整の後に、各兵士個人の希望を聞き入れて行うとかであれば、自爆装置も人道的にアリとされる可能性も十分ある。そういった背景があった上でなら、トランザム自爆の場面が多かったことも、決して不自然ではないように思う。軍務で死ぬことを推奨するわけではないが、己の死を尊厳あるものにする為に、そういう選択肢も用意した…というのもあるのかも知れない。